とんと昔メルヘン 其の18
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せんとくの金(せんとくのかね) |
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文 榛谷泰明 |
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イラスト 長岡久美子 |
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とんと昔あったと。
秋が深まったある日のこと、一人の六部(りくぶ)が山道を歩いていたと。六部というのは、諸国をめぐって修行(しゅぎょう)をしている巡礼(じゅんれい)、お坊(ぼう)さんだね。
その六部が、落葉を踏みしめながら、歩いていると、足に何かがひっかかった。拾(ひろ)いあげてみると、小さな布袋(ぬのぶくろ)だったと。
「誰が落としたのだろう」と、六部がその布袋を開けてみると、中に一枚の小判が入っており、それにそえて「せんとくに与える金(かね)」という書きつけがあったと。
「これはせんとくという人のものか。私がもらっていい金ではない」
六部は布袋をそっと地面(じめん)にもどすと、また山道を歩きだしたと。
間もなく、六部は一人の爺(じい)さんとすれ違(ちが)ったと。爺さんは大きな籠(かご)を背負っていて、地面に散らばった木の葉を、ガサガサと集めては、籠に入れていたと。落葉は畑の肥料(ひりよう)にするんだね。
さて、旅の六部は、道端(みちばた)にお地蔵(じぞう)さんや馬頭観音(ばとうかんのん)さんがあると、立ち止まって、お経(きょう)をあげたりしながら、少しずつ山を降りて行ったと。ちらほら、畑が見えてきたと。丁度(ちょうど)、その頃になると、とっぷり日が暮れてしまったと。
「どこかで泊(と)めてもらわなければならないな」と思っていると、チカチカと灯(あか)りが見えてきたと。一軒の農家があったと。
「今晩一晩、泊めてください」と、六部が声をかけると、婆(ばあ)さんが顔を出したと。
「うちではいま、嫁が大きなお腹をしておりますもので、何のおかまいもできませんが、それでもよろしかったら、六部さま、どうぞお泊まりになってください」
「それはかたじけない」と言っているところへ、山道ですれ違った木の葉集めの爺さんが帰って来たと。
爺さんは落葉がいっぱい詰(つ)まった籠をあけたと。と、中から小さな布袋が出てきたと。
「こんなものを拾ったのか、気が付かなかったわい」
それを見て、六部が言ったと。
「その中には、小判が入っていますよ」
「え、六部さま、どうして知ってなさるんです」
「実はその袋、山道で拾ったんだけれども、小判の送り先の名前が書いてあったので、そのまま置いて来たんですよ」
「それなら、最初に見つけたのは、六部さま。この小判は六部さまのものだ」
「いや、その小判には、せんとくに与える金と書いてあるはずだ。そういう書きつけが、袋の中に入っているはずですよ」
「どれどれ」と、そんなやりとりをしていると、嫁がにわかに産気(さんけ)づいた。
「爺さん爺さん、早く湯をわかして」
「ほいほい、ほいほい」「さ、早く早く」
そんなこんなの大騒ぎの末、嫁は無事に男の子を生んだと。爺さん婆さんの孫が生まれたわけだね。爺さんは大喜びで、
「さあて、何という名前にしようか。婆さんの名がおせん。わしの名が徳蔵(とくぞう)、おせんと徳蔵、そうだ、二人の名前をとって、この孫の名はせんとくにしよう」
それを聞いて、六部は思ったと。
「せんとく。やはりこの小判はこの家のものだったのか。よかった、よかった」
朝日が昇った。
「婆さんや、お出かけになる六部さまには、おにぎりをお持たせするんだぞ」「はいはい」
婆さんは大きなおにぎりを二つこしらえたと。爺さんはその一つに、こっそり小判を入れたと。六部の旅に、その小判を用よう立(だ)てようとしたんだね。
「六部さまがお腹がへって、おにぎりを食べたときに、小判に気が付けばよい」と、爺さんは考えたんだね。
六部はお弁当のおにぎりをいただいて、爺さん婆さんに別れを告(つ)げ、また旅を続けたと。
ひとつ峠を越えて、霜柱(しもばしら)の消えかかった坂道を六部がくだって行くと、セカセカセカセカ、坂道を登ってくる若い男に出会ったと。
その若者は、遠くの町に働きにいっていたらしく、とっても疲れた様子をしていたと。
若者は妻の出産が間近い、との知らせを受けて、家へ帰るところだったんだね。
六部はもちろん、そんなことは知らない。ただ、若者がとっても疲れた様子をしていたので、きっとお腹がへっているにちがいない、と思って、おにぎりを一つ、与えたと。
この若者は、木の葉集めの爺さんの息子、昨夜生まれた「せんとく」のお父さんだったんだね。
例の小判は、六部が知らぬ間に、またせんとくの家へ戻って行くことになったと。
峠の頂(いただき)あたり、落葉を敷(し)きつめた道端(みちばた)の日だまりで、お父さんはおにぎりを食べたと。すると、カチッと何か固いものが、歯に当たったと。…………ヨカッタネ。
昔こっぽり、てんぽろりん。
類話の採話地
山形県村木沢