
とんと昔メルヘン 其の17
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猫檀家(ねこだんか) |
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文 榛谷泰明
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イラスト 長岡久美子
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とんと昔あったと。
ある山里に、小さな寺があったと。その寺には、檀家(だんか)がほとんどなくて、さびれる一方だったと。
山寺には、和尚(おしょう)さんがたった一人、住んでいたが、淋(さび)しいものだから、三毛猫(みけねこ)を一匹飼っていたと。猫は和尚さんから、自分の子供のように大事にされていたので、長生きをして、相当な年寄(としよ)りになっていたと。
あるとき、和尚さんが用事で出歩き、暗くなって帰って来ると、本堂の方から、なにやらにぎやかに、騒いでいる音が聞こえていたと。
「誰もいないはずなのに、変だな」と、和尚さんが戸の隙間(すきま)からのぞいてみると、三毛猫が大きな図体(ずうたい)をして、踊っていたと。しかも、和尚さんの衣(ころも)を着て、袈裟(けさ)までかけていたと。それを沢山(たくさん)の子猫が周(まわ)りで見ていたと。
「はてさて、猫は長生きすると、化けるようになると聞いていたが、うちの三毛猫もとうとう化け猫になったか」と思って、和尚さんは「エヘン!」と咳払(せきばら)いを一つして、「三毛や、いま帰ったぞ」と声をかけ、戸をゴツゴツと開けたと。
すると、三毛猫は、衣と袈裟をパッと脱ぎ、元の姿に戻ったと。集まっていた子猫たちは、さっと姿を消したと。
和尚さんが自分の部屋へ戻って、
「さあ、寝ようかな」と思っていると、三毛猫が近寄って来て、人間みたいに喋(しゃべ)ったと。「和尚さん、私はここで長年、お世話になって、つい化けるような歳(とし)になってしまいました。今日は和尚さんにそれを見られてしまい、もうここにはいられなくなってしまいました」
猫がこんなふうに喋ったので、和尚さんはすっかり驚(おどろ)いて、何と答えていいのかも、分からなかったと。猫は言葉を続けたと。
「和尚さん、長年お世話になった恩返(おんがえ)しをさせてください。このさびれた山寺を、もう一度、繁昌(はんじょう)させましょうよ。実は、近いうちに、村一番の長者(ちょうじゃ)の一人娘が、死ぬことになっています。その葬式のときに、私が娘の棺桶(かんおけ)を中空(ちゅうくう)に吊(つ)りあげて、葬式ができないようにします。長者は葬式をとどこおりなく済(す)ませるために、あらゆる手を使うでしょう。しかし、どのお坊さんが呼ばれても、葬式は続けられないでしょう。そこで和尚さん、和尚さんが来て、お経(きょう)を読んでください。お経の中程(なかほど)で、南無三毛(なむみけ)や、南無三毛や、と唱(とな)えたら、私は棺桶を下に降ろすことにします」
そう言うと、三毛猫は和尚さんの前から、いなくなったと。
間もなく、猫の言葉どおりに、本当に長者の一人娘が死んだと。長者は村中のお坊さんを招(まね)いて、盛大(せいだい)な葬式をすることにしたと。が、山寺の和尚さんだけは、みんなから忘れられていたので、招かれなかったと。
いよいよ野辺(のべ)の送りとなって、棺桶が表に持ち出されたと。すると、突然(とつぜん)、棺桶がみんなの手を離(はな)れ、中空に浮かびあがったと。棺桶は音もなく、空の高みに昇り、降りてこなかったと。もはや誰の手も届かない。
長者はあわてふためいて叫(さけ)んだと。
「坊主ども、何をしておる。早く棺桶をおろせ!」
お坊さんたちは声を張りあげて、お経を読んだり、数珠(じゅず)をもんだり、呪文(じゅもん)を唱えたりしたが、棺桶は一向に降りてこなかったと。
「誰でもいい、誰でもいいから、早くおろしてくれ!」
お坊さんたちは、一段と声を高めて、お経をあげたと。しかし、何の効果もなかったと。「この村には、棺桶をおろせる坊主はいないのか。もう坊主は、この村に残っていないのか」
親類の者が答えたと。
「そういえば、もう一人いる。山寺に坊主が確か一人いたはずだ」
「呼んで来い。その坊主をすぐに呼んで来い!」
山寺の和尚さんが呼ばれて、駆けつけたと。なるほど、棺桶が中空に吊りあがっていたと。
和尚さんはおもむろに坐(すわ)ると、空を仰(あお)ぎながら、お経を唱え始めたと。そして、いいかげんなところで、「南無三毛や、南無三毛や」と唱えたと。
そうすると、今まで何としても動かなかった棺桶が、中空から静かに静かに降りてきて、地上に着いたと。
長者をはじめ、家の者、親戚の者、村の者たちはみんな、大喜びで、和尚さんをほめたたえたと。
ほかのお坊さんたちは、面目(めんもく)を失って、コソコソと逃げて行ったと。
葬式は一人残った和尚さんが引き受け、とどこおりなく済ませたと。
長者は心から和尚さんに感謝(かんしゃ)し、それからは山寺の檀家(だんか)になったと。長者は山寺を立派なお寺に建てかえてくれたと。また、お布施(ふせ)もいっぱいはずんでくれたと。
おかげで、和尚さんの寺は、もう一度繁昌し、和尚さん自身も、世間から生き仏さまとあがめられ、安楽(あんらく)に暮らしたと。
昔こっぽり、てんぽろりん。
類話の採話地
●岩手県遠野市
●長野県小川村
●岐阜県白川町
●鳥取県智頭町
●岡山県神郷町

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