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アユモドキが語るもの

山陽新聞社論説委員

田中収一


 五月下旬の日曜日、わが家がある岡山市郊外で地区の用水路の清掃活動があった。
 近所の人たちと語らいながら作業に汗していると、突然ビデオカメラや集音マイクなどを持った一団がやって来て、作業の様子を撮影し始めた。
 聞くと、お目当てはアユモドキだという。用水路の清掃で、その姿が見えるかもしれないと思って生態の記録映画を撮りに来たとのこと。「この辺りは貴重な生息地なんですよ」と教えてくれた。
 アユモドキといえば、ドジョウ科の淡水魚。日本固有種で、一見アユに似ているところからこの名がついた。絶滅にひんし、一九七七年に国の天然記念物に指定された。そんな貴重な魚が身近にいるとは、ここに移り住んで四年余りになるが、初めて知った。
 岡山淡水魚研究会の湯浅卓雄会長によると、アユモドキは岡山県内と琵琶湖・淀川水系に住む。川の護岸や底の石の間をすみかとし、産卵は水田など一時的に水がたまる場所で行う。それが、河川改修や開発で姿を消し、今ではまとまって生息が確認されているのは、全国でもこの地区くらいという。
 それにしても、なぜ岡山と琵琶湖なのか。はるか昔には水系がつながっていたのが、地殻変動で分かれて取り残されたとする説もあるが、不思議なことだ。
 同研究会が、地区内の休耕田を借りてアユモドキの繁殖地づくりに取り組んでいると聞き、出かけてみた。産卵を控えたアユモドキは温かい水を好むという習性を見つけ、それを利用して十年前から行っている。
 仕組みはこうだ。休耕田に水路やくぼみを設け、そばの用水から水を引き込む。田の中の水路で水をゆっくり回して太陽熱で温め、用水路に出す。その出て来る温かい水をたどり、アユモドキが田の中に入り産卵する。
 ふ化したアユモドキは幼魚になるまでここにとどまり、用水へと出て行く。そして成魚になると再び産卵に戻って来る。自然増殖のシステムづくりである。今年はどれくらい幼魚に育つか楽しみだ。
 湯浅さんは、産卵期前には用水の水量を毎日のように見て回る。少なくなったら酸欠で死なぬよう、用水を管理する人に頼み水位を上げてもらう。「農業の都合もあるが、よく協力してもらってます」。学区の「水辺の教室」にも、講師として参加、子供たちに自然や生命の大切さを教えている。
 失われつつあるものが再び帰ってくるのはうれしい。その陰には、関係者の並々ならぬ努力と愛情がある。だが、湯浅さんは「十年たっても思うようには増えていない」と難しさを語る。当のアユモドキにすれば「人間が環境さえ壊さなければ」と言いたかろう。
 環境や生態系は、私たち今を生きる者が、守り伝えるべき貴重な「財産」である。それは、一度壊すと再生はなかなか難しいことを肝に銘じたい。




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