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食ではなくまちを売れ
列島は食文化の宝庫
秘訣はプラスα
不可欠な女性パワー

長銀総合研究所産業調査第三部主席研究員

藤澤研二

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五タイプの“食”まちおこし

 南北約二千キロの細長い日本列島は、四季折々の気候の変化も手伝って、全国各地に実に多様な食文化を形成してきた。それも、山が多く、また、周囲を海に囲まれているため、山の幸、海の幸にも恵まれ、食の素材には事欠かない。そして、日本人は、それらの豊富な素材を活かし、多様な調理の技を用いて、味はもちろんのこと、香りや盛りつけ、器の美しさなど、五感で食を楽しむ、繊細で高度な文化を築いてきた。このような日本列島は、どこを旅してもその土地土地のおいしい料理や土産物に出会うことができ、それが旅の大きな楽しみとなっている。まさに、日本列島は“食文化の宝庫”といえる。
 そのような日本列島であるから、各地で「食」をテーマにしたさまざまなまちおこし活動が展開されてきた。その代表的な事例については、後の各レポートに詳しいが、それら“食によるまちおこし”は、以下の五つくらいのタイプに分けることができる。
1.
ひとつ目は、農林水産物の産地が、素材の質のよさを生かしてブランド化を図ったり、ユニークな販売拠点を整備したりするタイプである。レポート事例では、大分県佐賀関町の「関サバ、関アジ」や焼津市の「さかなセンター」がこのタイプだ。ほかにも、前沢牛(岩手県)、鹿児島黒豚、比内鶏(秋田県)などの食肉や桜桃(おうとう)(サクランボ、山形県)、マスカット(岡山県)、二十世紀梨(鳥取県)などの果樹生産地に事例が多い。
 このタイプは、消費地の市場や消費者にブランドを浸透させるため、まず飼育、栽培方法や出荷品の規格を地域レベルで厳格に設定、管理して、他産地との品質面での差別化が図られる。ブランドが確立されると、それら農産物の加工品を開発したり、あるいはそれらの農産物を使ったさまざまな料理を提供する飲食施設を、展開することなどへと発展するケースが多い。
2.
このようなブランド農産物に限らないが、地元で産する素材を中心とした加工食品でまちおこしに取り組むのが二つ目のタイプである。レポート事例では、特産のメロンからゼリーやブランデーなどさまざまな加工品を開発している夕張市、柿づくしでまちおこしを行う奈良県西吉野村がこのタイプだ。夕張市のケースでは、もともとの特産品のメロンよりも、現在ではその加工品のゼリーのほうが有名になっている。
 実は、食をテーマにしたまちおこしでは、この二つ目のアプローチが最も一般的である。

地域おこしの主役“食”

「一村一品」運動をはじめ農山漁村の地域おこしでは、常に主役を演じるのが「食」だ。そして、「漬物」「味噌」「佃煮(つくだに)」「ワイン」「ハム・ソーセージ」などがその代表選手だ。地域で素材を産出し、それを加工する技があるのだから、それを商品化しようというのは自然な発想だ。一次産業主体の地域としては、農産物の付加価値化や規格外品の活用などが図れるためメリットも多い。しかし、このタイプは、多産多死で、どこでも似たような商品になりがちであり、なかなか成功事例が作れないのもまた事実だ。
3.
三つ目のタイプは、同じく地域の素材を生かした加工食品でも、地場産業化した伝統食品などによるものだ。各地の地酒や銘菓のほか、醤油(しょうゆ)、梅干し、蒲鉾(かまぼこ)、緑茶などが代表例だ。これらの伝統食品は、まさに歴史風土と一体化して地域の食文化を形成してきた。すでに土産物などとしてブランドを確立し、まちおこしに貢献しているものも多い。加えて最近では、工場見学や遊休化した施設を活用したイベントの開催など、積極的に地域の観光資源として再評価する動きも活発化している。
4.
四つ目は、前述のような地域で産出される農産物や伝統文化などとの関連が希薄で、むしろ「新名物づくり」によるまちおこしだ。あえていえば、新しい食文化づくりであるが、そもそもまちおこし活動として取り組まれたものが多い。レポート事例では、喜多方市のラーメン、宇都宮市の餃子(ぎょうざ)などが当てはまる。ラーメンでは、札幌、博多など同様の事例が多いが、広島のお好み焼き、あるいは各地に登場した地ビール事業などもこのタイプだ。
 このように、このタイプは日本人に極めてポピュラーで、手軽な外食系メニューが多いことが特徴だ。そして、ポピュラーなメニューなので、その都市を訪れた多くの人がそれを食し、また食することを楽しみに訪れ、ますます都市と食品がリンクして印象づけられる。

必要なこだわり商品

 最後に、以上の四つのタイプと重なる部分もあるが、最近事例が増えてきているのが食を主題にした「テーマパーク」だ。新横浜ラーメン博物館(横浜市)、玉露の里(静岡県岡部町)、豚をテーマにしたモクモク手づくりファーム(三重県阿山町)、おやきの里(長野県小川村)などがこの事例として挙げられる。これらは“食によるまちおこし”の核施設として、資料展示をはじめさまざまな情報の発信、さらには体験イベントの開催など、運営にも工夫がこらされているケースが多い。
 前述のように、“食によるまちおこし”は至るところで取り組まれている。しかし、レポート事例のように全国区に名のとどろいた成功事例はごく一部であり、思うような成果を挙げられず、壁にぶつかっているケースのほうが圧倒的に多い。
 それでは、次に成功事例は何が違うのか、成功の秘訣(ひけつ)は何か、を探ってみよう。
 まず、何よりも「食」の質が高いことが挙げられる。おいしいことはいうまでもないが、消費者に強烈な印象を与えたり、他の商品にはないプラスアルファの魅力を持っている。いまの消費者は、それなりに目も口も肥えている。そんな消費者をファンとしてしっかりとらえるには、中途半端な品質では難しい。食品の質を規定するのは、素材と製造方法だ。
 つまり、素材を吟味し、製造に手を掛けること、言い換えれば“こだわり”を持った商品づくりが必要だ。そして“こだわり”の度合いが強ければ強いほど深く消費者の心をとらえ、共鳴させることができる。つまり、この“こだわり”が第一の成功のカギだ。
 次に、“食によるまちおこし”ではあるが、「食」を売っているのではなく「まち」を売っていることも共通点だ。やや逆説的で分かりにくいかもしれないが、「食」そのものではなく、トータルな地域の風土や文化と一体となった「食」を売るという視点が重要だ。

マスコミを上手に使え

 つまり、消費者とやり取りするのは、あくまでも商品という形をした地域情報である。この視点を持った地域は、他の手段と組み合わせた複合的な戦術やまち全体を巻き込んだ活動が展開されることになる。そして、どれだけ幅広く地域の人びとや資源を巻き込めるかが、まちおこしのパワーを規定し、情報発信のインパクトを左右することになる。
 また、マスコミを上手に使うのも共通する特徴だ。いま、こだわりを持った商品や物語性のある商品は、マスコミが放っておかない。そのため、しっかりした商品さえ作っておけば、それほどコストを掛けずに情報発信することが可能である。しかし、発信したい情報を、発信したいタイミングで、知らせたい対象に伝えるには、情報発信に対する明確な戦略が必要になる。それがあるとないとでは、情報発信の効果が大きく違ってくるからだ。
 もうひとつ付け加えておけば、多様な販売方法を活用していることだ。本来は地域を訪れた人びとに、地域全体とともに「食」を味わってもらうことが望ましい。しかし、リピーターを含め幅広いファンをつくるには、宅配便を使った産直や都市のアンテナショップなど多様な販売チャネルを積極的に開拓すべきだ。
 以上のような成功事例に学ぶのと同時に、“食によるまちづくり”を今後さらに大きく発展させるためのポイントとなりそうな点についてみていこう。
 ひとつは、活動を進める体制だ。「食」に関しては、とにかく地域の女性たちが主役だ。素材としての農産物の生産を支えるのも、食品としての加工の技を持っているのも、そして販売を担当するのも地域の“ばあちゃん”や“かあちゃん”たちだ。また、酒など一部のものを除くと、それらの食品を購入するのも多くは女性である。つまり、生産し、販売する側も、買う側も女性を引き付けるものでなければうまくいかない、ということだ。
 幸い、いまの女性たちはとにかくパワフルだ。あとは、そのパワーをいかに引き出し、持続させるか、上手に側面支援ができればよい。男どもは、黒子役に徹して、主役に思う存分活躍してもらうのがよさそうだ。また、女性たちが働いた成果は、女性たちが自分の裁量で自由に使えるようにすることが肝心だ。これらが整えば、皆で集い働くことの喜びと達成感を糧(かて)に、女性たちは持ち前のパワーを発揮し、まちおこしも前進していくことになる。

成否を分けるマーケティング

 もうひとつ重要なことは、マーケティング機能だ。「食」に関しては、何を、だれに、どう売るかだが、前述の「まち」そのものを売り込むという視点に立てば、何をまちおこしの“テーマ”にするか、どのような“物語”を組み立てるか、ということだ。このようなマーケティング計画の優劣が、まちおこしの成否を決定的に分けるといっても過言ではない。
 ただ、マーケティング計画を行うには、情報の感度やセンスが求められ、だれでもができるものでもない。地域の中に、そのような人材がいなければ、外部の助けを借りてでも、しっかりとしたコンセプト設計が必要だ。ただ、外部の機能を使う場合、おまかせ方式ではだめだ。あくまでも地域が主体で、足りない部分だけのサポートを受けるのでないと意味がない。これらの計画づくり、あるいはまちおこしの実践を通して、地域の人材をどれだけ育てられるかも、まちおこし活動の大きなテーマだからだ。
 冒頭に、日本は“食文化の宝庫”だと述べた。しかし現在、インスタント食品の氾濫(はんらん)や食品添加物の乱用などで、日本の「食」はさまざまな問題を抱えている。また、地域の食文化を支えてきた地域の一次産業や伝統的な食品加工業が、担い手の減少や輸入食品の増大によって衰退し、この多様で、高度な日本の食文化を維持し、次代に受け継いでいけるかについては、はなはだ心許ない状況にあることもまた事実だ。
 しかし、一方では高齢社会の到来を前に、いま健康を含む「食」への関心が大いに高まっている。その中で、古くから地域に存在する伝統的な食品や食スタイルの見直し機運が高まっている。このチャンスをとらえ、地域が知恵を結集し、新しい、そして魅力的な「食」が各地に誕生し、日本の「食」が再構築されることを期待して本稿を締めくくりたい。

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