
とんと昔メルヘン 其の10
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隣の寝太郎(となりのねたろう) |
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文 榛谷泰明
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イラスト 田島ムーズ
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とんと昔あったと。
ある所に、ちっとも仕事をしない、怠(なま)け者の若者がいたと。明けても暮れても、ごろごろ寝てばかり。村人たちは、その若者を「寝太郎」と呼んでいたと。
あんまり働かないものだから、寝太郎の家は貧しくなる一方だったと。そんなある日、寝太郎の家に隣(となり)に住む長者が、一人娘の婿(むこ)を探している、という話を小耳(こみみ)にはさんだと。
すると、寝太郎は、むっくりと起き上がり、霞網(かすみあみ)を持って、山へ出かけたと。そして、夜になると、寝太郎は、大きな白鷺(しらさぎ)を一羽生け捕(ど)りにして、帰って来たと。
その鷺が逃げないように、篭(かご)で伏(ふ)せて、次の日、寝太郎は町へ出て、提灯(ちょうちん)を一個買って、戻って来たと。
そうやって寝太郎は、闇夜(やみよ)がくるのを待ったと。月のない、闇夜の晩がきたと。
提灯を懐(ふところ)に、鷺を小脇(こわき)に抱え、寝太郎は隣の長者の屋敷(やしき)にしのび込み、大きな松の木によじ登ったと。そして、あたりが静まりかえった頃、大きな声で、呼んだと。
「長者の旦那(だんな)はいるか! 旦那はいるか! いるならば、身形(みなり)をただして、出て参れ!」
その声で目を覚ました旦那は、寝ぼけまなこで、雨戸を開けてみたと。姿は見えないが、上の方から、また声がしたと。
「よく聞け。われこそは、奥山の天狗(てんぐ)だ。旦那がいるならば、身形をただして、出て参れ!」
「大変だ。天狗さんが来てござる。こんな寝巻姿(ねまきすがた)では、失礼に当たる。羽織袴(はおりはかま)、羽織袴だ」と、旦那は大あわてで、羽織袴に着替(きが)え、扇子(せんす)を手に、庭先にかしこまったと。
「へへえ、当家の主でございます」と、深々と頭をさげたと。
「そちの家に娘がいるな」
「はい、一人ございます」
「その娘を、隣の寝太郎の嫁にやれ」
「は? な、なんと申されました?」
「そちの娘を、寝太郎の嫁にやれ」
「めっそうもない。あんな……」
「あんな何じゃ?」
「あんな怠け者の嫁にはやれませぬ」
「寝太郎のどこが怠け者じゃ」
「明けても暮れても、寝てばかりおります。ちっとも働きません」
「長者の婿ならば、働く必要はなかろう。働き手ならば、そちの家にはいくらもおろう」
「それはそうですが」
「やるか、やらぬか。もしやらなければ、そちの家に不吉(ふきつ)なことが起こるぞ」
「不吉なことと言いますと?」
「身上(しんじょう)がつぶれる。そちは早死(はやじ)にする。娘は病(やまい)で倒れる。田畑は人手に渡る。それでもよいか」
「それは困ります。それは困ります」
「ならば、娘を寝太郎の嫁にやれ、いいな、分かったな。分かったならば、わしは奥山へ帰るぞよ」
寝太郎は、提灯を鷺の足にくくりつけ、提灯に火をともすと、パッと放してやったと。すると、鷺はパタパタと飛び上がって、山の方へ帰って行ったと。
それを見て、旦那は、本当に天狗さんが山へ帰って行った、と思ったと。旦那は、
「もうこうなったからには、娘を寝太郎の嫁にしてやるしかない。天狗さんが言ったような不吉なことを避(さ)けるには、寝太郎に嫁(とつ)がせるしかない」と考え、娘を説得(せっとく)して、嫁入りさせたと。
そういうわけで、寝太郎は、隣の長者の娘だけでなく、家屋敷も田畑も、財産の何もかも受け継(つ)いで、裕福(ゆうふく)に暮らしたと。
昔こっぽり、てんぽろりん。
類話の採話地
新潟県豊浦町
京都府和知町
鳥取県国府町
香川県綾上町
●寝正月をどうぞ
「隣太郎」話は、一様ではありません。山口県で聴いた「厚狭(あさ)の寝太郎」は、佐渡へ稼ぎに行き、金(きん)を手に入れて、郷里に田を開くという話です。いわば郷土の英傑です。山口県山陽町の厚狭駅前には、寝太郎の像がたち、同町には寝太郎町という地名があります。
新潟県採話の「隣の寝太郎」は、ごらんの通りの怠け者です。怠け者で思い出すのは、岡山県で聴いた「桃太郎」話です。
ふつう、桃太郎は、勇壮で行動力のある男性の代表者ですね。ところが、岡山県の山里の「桃太郎」は怠け者なのです。いつもごろりと寝ころがっていて、山仕事に誘われても一向に動こうとしません。何回も何回も誘われて、やっと重い腰を上げるのです。
中国地方には、今でも「桃太郎さんの山行き」という言葉が残っています。しゃきしゃきと動かず、にわかごしらえで出掛ける人のことを指して、こう呼ぶのだそうです。

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