nagare.GIF yuyake.GIF


徳島県貞光町
貞光ふるさと探偵団
広域で新たなうだつがあがる日に向け活動

徳島、四国の入り口に

 平成十年、四国の徳島県には、同県始まって以来ともいえる大きな変化が訪れようとしている。それは、明石海峡大橋の完成で開通ずみの鳴門大橋を経由して、神戸─淡路島─徳島市が約一時間で結ばれることとなる。岡山、児島経由、坂出に渡る従来のルートに比べ京阪神からの時間、距離がぐっと縮まるためである。名実ともに徳島が四国の入り口となることが予想される。
 徳島からは吉野川沿いに徳島自動車道が延び松山、高知へもこの道路を経由して行けることになる。どちらかというとメーンの交通ルートからはずれた徳島県の吉野川流域地方が、四国のメーンルートとなる日も目前にせまっている。今回、訪ねた徳島県貞光町は、徳島自動車道の工事がたけなわで大きな変化を前に静かにたたずんでいた。隣の脇町とともにうだつのある町並みが静かに残り、どこにでもある町とは違ったなつかしさを感じる町である。ここで活躍する「貞光ふるさと探偵団」を紹介する。
 団長を務める阿佐哲也さんにお会いした。「貞光ふるさと探偵団」の結成は、阿佐さんが貞光町商工会青年部長を務めていた平成二年。徳島で就職後ふるさとで家業を継ぐ。阿佐さんも静かな町で何かをしたいと行動が始まった。青年部の中で「地域おこしは変わりばえのしない単発イベントばかりであることに、多くの部員は疑問を感じていた。ふるさとを見つめ直すような活動をしようと皆の意見が一致した」。そして、貞光ふるさと探偵団が結成され、まず手掛けたのが、「ごらんなして貞光写真展」。自分たちにとっての貞光町とは何かを探る取り組みからスタートした。

最古の劇場映画祭を生む

 仲間内だけでなく広く作品を募集した。その応募作品の中に他町の人が撮影した貞光劇場の写真があった。同劇場が古いことは知られていたが、その存在などについて町民のほとんどが無関心だった。同劇場は、昭和七年に建てられた徳島県下最古の劇場である。客席の両脇にさじき席があり、天井には当時の商店の広告が墨で書かれて、昭和初期の情緒がたっぷり残る。「映画が娯楽の中心だった昭和三十年代は貞光も活気があった。しかし映画の衰退と時を同じくして町もさびれた。映画不遇のいまも現役を続けている劇場はすごいと感じた」。だからこの町で頑張っていかなければならない。自分たちと劇場をだぶらせ、「まちおこしにかける意気込みをこの劇場で表したかった」。こうして第一回映画祭を実施することになる。
 貞光ふるさと探偵団は、商工会青年部、町役場有志で結成された団体で、団員は二十人から三十人ほど。会則も定めず、そのときの活動の中でふるさとを見つめ直そうと一定のメンバーだけではなく町のシルバー人材センター、老人会、婦人会や映画好きな若者の参加を得て実施されてきている。「映画祭の成功もさることながら開催に向けて町内のあらゆる人とふれあうことができたのがいちばんの収穫である」と阿佐さんは語る。

心こもった映画祭と山田監督

 第一回映画祭は平成三年四月、山田洋次監督を迎え、貞光劇場を中心に「山田洋次映画祭」として実施された。寅さんシリーズなど五本の同監督の作品上映、同監督の講演やパネルトークも実施された。映画「幸せの黄色いハンカチ」にならい町内各商店の軒先には黄色いハンカチがひるがえり、徳島との間で運行された寅さん列車でのメンバーらによるお茶のサービスなどは当日は町をあげてのイベントとなり地元紙に大きく報じられることとなる。山田監督も「最近各地で映画祭が開かれているが、ここ貞光に来てはじめて心のこもった映画祭に出会った」と感激。その後、監督の作品「息子」が全国公開に先駆け貞光劇場で先行ロードショーが行われ、映画界では話題となった。初日には主演の俳優、女優が舞台あいさつに同劇場を訪れるなど、山田監督のはからいに町民も大フィーバーでこれにこたえたという。
 全国的にも注目を浴びた「山田洋次映画祭」の影響で貞光町の町並みが研究者の話題にのぼるようになる。平成三年十一月「日本ナショナルトラスト」による二層うだつや貞光劇場の調査が行われた。この調査の際、準備や研究会の手配を積極的に手伝った探偵団は、町内に現存する貴重な地域資源を再発見することとなった。
 もっといろんな価値観のある監督がいて、われわれと違った視点から物事を見ることのできる人がいるはず。しかし素人の探偵団に映画関係者へ紹介するルートがあるはずもなく、もんもんとした日が続いた。偶然、探偵団の活動が本に掲載され、映画会社東映の知るところとなった。東映から映画祭への問い合わせがあったとき、探偵団の実情を説明すると協力を申し出てくれ、アニメ監督の高畑勲氏と出会い平成四年十月、高畑勲映画祭が実現する。さらに佐藤純彌映画祭、大林宣彦映画祭が開催された。
 ポスターから横断幕、案内標識、すべて手作りである。予算がないこともあるが、「われわれにしかできないものを作りたい」の一念で映画祭の約一カ月前は毎晩遅くまで作業を続けた。団員のほとんどがUターン・Iターン組で都会の便利さ、文化について訴えることしかできなかったが、回を重ねていくうちに本当の心の豊かさと自分たちの住む地域のよさにすこしずつ気が付きはじめ、自信をもってふるさとを語れるようになってきたという。

近隣町村と「古代ロマンの里」構想

 映画祭を中心に活動してきた貞光ふるさと探偵団だが、地元の人びととの核として、または、ふるさとへの自信からさらに拡大した活動を目指している。平成七年、隣接する町村の有志と美馬西部チャレンジ会議を結成し、剣山・吉野川周辺に散在する遺跡を調査、探索し、観光と結び付ける「古代ロマンの里」構想がスタート。さらに広域で地域を見つめ直そうと行動をしている。「映画祭などの経験を生かして美馬西部の仲間と大きな輪を広げていきたい」と阿佐さんは抱負を語る。
 かつてない交通の改革を目前にして地域に自信をもち始めた「貞光ふるさと探偵団」。今度は、広域で、新たなうだつがあがる日を楽しみにして貞光町を後にした。

貞光ふるさと探偵団プロフィール

●設立=平成二年八月
●設立主体=市町村、商工会青年部
●運営主体=商工会青年部
●代表者=阿佐哲也
●会員数=二十人(男十九人、女一人)
●連絡先=徳島県貞光町東浦一-三 町役場内木下智正 TEL:〇八八三-六二-三一一一




●12月号の目次へ