
|
|
|
|
ごみ焼却施設におけるダイオキシン類対策 |
|
自治大臣官房企画室
|
|
河合宏一
|
|
|
ダイオキシン類とは
ダイオキシン類とは、有機塩素化合物の生産過程や、廃棄物の焼却過程などで非意図的に生成する二百十種類の有機塩素化合物の総称であり、その発生源は多岐にわたっている。ベトナム戦争で使用された枯葉剤にも含まれていたとされるダイオキシン類は、「人類史上最強の毒物」とも評されるほど毒性が強く、平成九年二月に世界保健機構(WHO)の国際ガン研究機関(IARC)が発ガン性について、これまでの「可能性がある」を「ある」に変更したほか、動物実験において、催奇形性、皮膚障害、内臓障害などさまざまな影響が報告されており、人体への影響についても危惧されている。人体へのダイオキシン類の摂取は、食品および空気からのものがほとんどで、食品からの摂取が多いといわれており、その環境汚染が大きな社会問題となっている。
日本におけるダイオキシン類の大気中への排出量は、超高感度の測定・分析が必要であり、必ずしも正確に把握されているわけではないが、京都大学工学部の平岡名誉教授の調査によると、平成二年で年間三千九百四十〜八千四百五グラム、このうちごみ焼却炉からの排出量が八割から九割を占めているとされている。平成八年に厚生省が推計したところでは、市町村設置のごみ焼却施設からのダイオキシン類発生量は年間四千三百グラムであった。
ごみ焼却施設以外にも、鉄くずを原料として鉄鋼を造る電炉(排出量全体の約四%、通産省で規制を検討中)や、小中学校などでの小規模な自家焼却施設(文部省が学校内でのごみ焼却の抑制、廃止を通知)などについても、発生原因として指摘されている。
ごみ焼却施設におけるダイオキシン類発生メカニズム
ごみ焼却施設から排出されるダイオキシン類は、
1.不完全燃焼により生成するもの(八百度を下回る低温で燃焼した場合)
2.排ガスが三百度前後で集塵機に流入した場合に生成するもの
の二種類があるといわれている。(図1参照=省略)
ごみ焼却施設から発生するダイオキシン類の排出を抑制するためには、焼却対象となる廃棄物そのものを減量することがまず第一である。そのためには、大量生産大量消費という国民のライフスタイルの変換、リサイクルの推進などを呼びかけていかなければならない。しかし、その一方で廃棄物の焼却を完全にやめてしまうことは不可能であり、ごみ焼却施設からのダイオキシン類の発生を最小限にくい止める対策を講じることも同時に必要となる。
具体的な排出抑制策としては、当然前記1.2.に対応した対策を講じることになる。1.の不完全燃焼対策としては、八百度以上の高い燃焼ガス温度を維持すること、十分なガス滞留時間(二秒以上)を確保すること、連続運転の実施により立ち上げ・消火時の不完全燃焼を防ぐこと、炉内で十分に攪乱して新鮮な空気と触れるよう配慮することなどが有効である。2.の排ガス対策としては、排ガスを素早く二百度以下に温度を下げること、低温で集塵効率の高い集塵機を取り付けることなどが挙げられる。
ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン
厚生省では、平成七年十一月より厚生科学研究班でダイオキシン類の毒性評価の研究を行い、平成八年六月に当面の耐容一日摂取量(TDI)を十ピコグラムと提案する報告を取りまとめた。それを受けて、平成二年十二月に取りまとめられた「ダイオキシン類発生防止等ガイドライン」(旧ガイドライン)を改定することとし、平成九年一月、「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン〜ダイオキシン類削減プログラム〜」と題する新ガイドラインが策定された。
新ガイドラインは緊急対策と恒久対策とから構成されているのが大きな特徴である。緊急対策とは、ごみ焼却施設周辺の最も影響を受ける地点においても、摂取量がTDI(十ピコグラム)を超えるおそれがないように緊急に講ずべき対策であり、具体的には、個々の施設について、ダイオキシン類排出濃度を八十ナノグラム以下にするための対策を講ずるものである。それに対して、恒久対策とは、全国的に排出量を削減するため、現時点において技術的に最大限可能な対策である。
※TDI Tolerable Daily Intakeの略。健康影響の観点から、人間が一生涯摂取しても耐容されると判断される一日当たり、体重一キログラム当たりの量。
※ピコグラム:ピコは10の-12乗、1兆分の1グラム
※ナノグラム:ナノは10の-9乗、10億分の1グラム
全国百五のごみ焼却施設で緊急対策が必要
厚生省では、平成八年六月のTDIに関する報告を受けて、ガイドラインの改定に取りかかると同時に、全国の市町村設置のごみ焼却施設について、総点検調査を行うよう指示しており、平成九年四月および六月に順次その結果が公表された。
その結果、五月末現在の全国の市町村設置のごみ焼却施設は千六百四十一施設、うちまだ測定結果がまとまっていない百四十五施設を除く千四百九十六施設のうち、約七%に当たる百五施設が排ガス中のダイオキシン類濃度が八十ナノグラムを超えていることが判明した。これらの施設については、すでに休廃止や建て替えを実施あるいは予定している施設(十六施設)や燃焼効率を高めるための大幅な改造を実施あるいは予定している施設(二十九施設)もあり、早急な緊急対策が実施されているところである(緊急対策については、後述する法的規制において、一年以内の実施が求められている)。
なお、ダイオキシン類削減対策のために緊急に実施されるごみ焼却施設の改良・改造事業については、廃棄物処理施設整備費補助金が優先的に配分されることとなっている。
ダイオキシン類に対する法的規制
こうした状況を踏まえ、先の通常国会でもダイオキシン類対策の重要性がたびたび指摘され、政府において、八月中に基準改正などの法的整備、年内施行という意気込みのもと政令改正などの作業が進められた。
ひとつは大気汚染防止法施行令の改正で、ダイオキシン類を大気汚染防止法上の指定物質に指定するとともに、指定物質排出施設として、一定規模以上の製鋼用の電気炉及び廃棄物焼却炉(いずれもすでに大気汚染防止法上の規制対象となっているばい煙発生施設と同等の規模)を指定した。これによりダイオキシン類についての指定物質抑制基準が設けられ(環境庁告示)、都道府県知事が必要な勧告をしたり、必要な報告を求めたりすることが可能となる。
もうひとつの柱は廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令の改正であり、廃棄物焼却施設を設置するに当たり、都道府県知事の許可を受ける必要がある施設の範囲を、従来の原則として一日当たり処理能力が五トン以上の施設から、一時間当たり処理能力が二百キログラム以上または火格子面積が二平方メートル以上の施設に引き下げ、大気汚染防止法上の規制対象と一致させることとした。また、新ガイドラインで定められた焼却施設、焼却方法および排出基準などについて、厚生省令および告示で明確に規定されることとなった。
この二つの政令改正は、平成九年八月二十六日に閣議決定され、関連の省令や告示とともに平成九年十二月一日から施行されている。
恒久対策の実施とこれからの一般廃棄物処理行政
ダイオキシン類については、環境中の挙動も不明であり、人体への摂取量についての知見も不足している状態にあること、また、ダイオキシン類は一般環境中で分解されにくく、脂溶性で、生体内に蓄積(生物濃縮)する物質であることから、八十ナノグラムという緊急対策基準にとどまらず、技術的に可能な限りの削減が望ましい。欧米においても、このような考え方がダイオキシン類の排出濃度基準値の設定に当たっての基本的な考え方となっており、現に欧米各国の一般環境大気中のダイオキシン類濃度は、わが国と比較して低水準にとどまっている。
このような観点から、前述の法的規制の一環として改正された廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(厚生省令)においては、恒久対策として、次のような維持・管理基準を定めている。
1.燃焼室への廃棄物の投入は、外気と遮断した状態で定量ずつ連続的に行うこと。
2.燃焼室中の燃焼ガス温度を八百度以上に保つこと。
3.運転開始時には炉温を速やかに上昇させ、運転停止時には炉温を高温に保ち廃棄物を燃焼し尽くすこと。
4.集塵機に流入する燃焼ガス温度をおおむね二百度以下に冷却すること。
5.排ガス中のダイオキシン類の濃度を表1(=省略)の基準以下とすること。
6.燃焼ガス温度および排ガス中の一酸化炭素濃度を連続的に測定すること。
7.排ガス中のダイオキシン類の濃度を年一回以上測定すること。
これらの基準を達成するためには、発生メカニズムの項で触れた1.不完全燃焼対策や2.排ガス対策はもちろん、技術的に可能な限りの対策が必要となってくる。ダイオキシン類排出抑制対策の基本は、第一には、ごみの減量化やリサイクルの推進による焼却量の抑制である。しかし、その一方で、ある程度のごみの量と質を確保し、安定的な燃焼を確保することがダイオキシン類の生成抑制につながることから、大型焼却炉の設置、それに伴うごみ処理の広域化を推進するということも各市町村は検討してみる必要があろう。また、RDF(Refuse
Derived Fuel:ごみの固形燃料)化の推進も効果的である。ごみをそのまま焼却する場合に比較して、ごみを適正にRDF化すると、質が均一化されるため、燃焼管理が容易になるうえ、RDFは長期の保管や運搬も比較的容易であり、個々のRDF化施設で製造したRDFを一箇所に集約して燃料に使用したり、焼却することが可能となる。
厚生省令では、既存炉についても五年以内に恒久対策基準を満たすことが求められているが、将来に向けてのごみ焼却施設におけるダイオキシン類対策を考えるに際しては、各市町村は単に個々の焼却炉の設置、維持管理の方策を検討することにとどまらず、一般廃棄物処理行政そのものの在り方が問われているという認識を持って対処する必要があろう。厚生省では、来年度から国庫補助の対象を「二十四時間運転型の全連続炉で、一日当たりの処理能力が百トン以上の施設」に限るという意向を持っているようであり、そうした動向にも留意しつつ、各市町村では緊急かつ慎重にダイオキシン類対策を講じていく必要があると思われる。
国としても、各市町村の取り組みに対する技術的、財政的な支援に最大限心がける必要があるが、それとともに、昨今のダイオキシン類をめぐる混乱の大きな要因は、ダイオキシン類に対する技術的知見が余りにも少なすぎる点にあることに十分留意すべきであり、ダイオキシン類の発生メカニズムの解明や、ごみ焼却施設におけるダイオキシン類の排出抑制技術の開発などを積極的に進めていかなければならないであろう。

●12月号の目次へ