
とんと昔メルヘン 其の9
 |
|
|
大歳の火(おおとしのひ) |
|
文 榛谷泰明
|
|
イラスト 田島ムーズ
|
 |
とんと昔あったと。
ある山奥に、父と母と息子(むすこ)と三人暮(く)らしの家があったと。その家は、山の中の一軒家だったと。
息子が一人前になったので、里から嫁(よめ)をもらったと。その嫁は、気立てのやさしい、いい嫁さんだったと。
ところが、息子の母、つまり姑(しゅうとめ)さんは、きつい気性(きしょう)の、口やかましい姑だったと。
その年もおしつまって、大歳(おおとし)の晩がきたと。大歳というのは、大晦日(おおみそか)のことだね。姑は嫁に言ったと。
「毎年のことだけど、囲炉裏(いろり)の火を明日の朝まで絶やしたらだめだよ。朝、かまどを焚(た)くときの火種を、囲炉裏から取るんだから、囲炉裏の火だけは、絶やすんじゃないよ」
そう繰り返して、きつく申しつけたと。
そこで、嫁はいっぱい薪(まき)を焚いて、その上に熱い灰をこんもりと盛って、火を埋(い)けて、休んだんだと。それでも、嫁は火のことが心配で、なかなか寝つかれず、夜中にそおっと起きて、囲炉裏の灰をかきのけてみたら、火は消えてしまっていたと。ひとかけらの火種も残っていなかったと。
「困ったわ、どうしよう。こんな夜中に火打石(ひうちいし)を打ったりすれば、みんなの目を覚ましてしまう。どうしよう」
嫁はいい考えが思い浮かばないままに、表へ出たと。
「明日の朝は、ひどく叱(しか)られて、私はもうこの家にいられなくなるかもしれない」と思って、ふらふら歩いていると、川向こうに、チラチラッ、チラチラッと、焚き火が見えたと。
「あ、あそこで誰かが火を焚いている。あの火をもらおう」と、急いで川向こうへ行ってみたら、ひげづらの恐い顔をした男たちが、六、七人、ぼんぼん火を焚いて、あたっていたと。嫁は恐ろしさも忘れて、声をかけたと。
「あの、すみませんが、火種をなくして、困っているんです、ひとつ、火種をもらえませんでしょうか」
「やってもいいが、その代わり、わしらの頼みもきいてくれるか」
「ききます、どんなことでも。火種さえもらえるのでしたら」
「それなら言うが、わしらの仲間の一人が、今さっき死んで、その死骸(しがい)をどうしていいか、考えあぐねていたところじゃ。明日は正月なので、葬式(そうしき)をするわけにもいかん。明日、明後日(あさって)とその次と、正月の三が日だけ、死骸を預(あず)かってくれないか。三が日が過ぎたら、死骸を取りに行くから、それまで預かってくれ。そうすれば、火種をやろう」
死骸なんて恐いなあ、と思ったが、火種がないことには家へ帰れないので、
「それでは、預かります」と言ったと。
男たちは、嫁の背中に死骸をおぶらせ、荒縄(あらなわ)でしっかりと縛(しば)りつけたと。そして、男たちは、朴(ほお)(枋?)の木の葉っぱに、火種を包んで、持たせてくれたと。
嫁は、気味(きみ)の悪さを我慢(がまん)して、死骸を背負って、家に戻ったが、家中を見廻(みまわ)しても、置くところがない。厩(うまや)の二階にでも隠(かく)しておくしかない、と考えて、二階へ上がり、積みあげられていたワラの中に、死骸を隠したと。そして、囲炉裏の火を埋けなおして、布団に入ったと。
さて、元旦の朝早く、夫は若水(わかみず)をくんだり、塩水をふったりして、家の中を浄(きよ)めたと。嫁も早々と起きて、お雑煮(ぞうに)をこしらえ、みんなで食べ始めたと。そうすると、厩の方で、馬が変な声で鳴くんだと。
「どうしたんだろう。いつもと違った声で鳴いている。おれ、ちょっと見てくるよ」
夫はそう言って、席を立ったと。嫁は気が気でなかったと。
「見つかったらどうしよう」と思っていると、厩の方から、
「大変だ! 大変だ!」という夫の叫(さけ)び声がしたと。
「見つかってしまった、さあどうしよう!」と嫁が小さくなっていると、
「おーい、来てみろ! 早く来てみろ!」と、また叫び声がしたと。
父と母はお箸(はし)を置いて、立ち上がり、厩の方へ行ったと。
「ああ、もうこれでだめだ。私はもうこの家にはいられない」と、嫁が泣きだしそうにしていると、
「おい、お前も早く来てみろ!」と夫が、戸口まで呼びに来たと。
嫁は仕方(しかた)なく、すごすごと立ち上がり、夫の後について、厩の入口まで行ったと。すると、父と母が厩の二階で、小踊(こおど)りして喜んでいたと。
変だな、と思って、のび上がって見ると、昨夜、死骸を隠したあたりが、何かキラキラ光っていたと。
「お前も上がってみろ」と夫に言われて、嫁は恐る恐る、二階へ上がってみたと。
そうすると、朝陽を受けて、キラキラ輝いていたのは、大判小判の山だったと。嫁はびっくりして、目を廻(まわ)したと。
ひとときたって、気持ちを落ち着けたところで、嫁は昨夜のことを話したと。すると、夫の父、つまり舅(しゅうと)さんだね、舅は言ったと。
「ひげづらの恐い男たちが六、七人というのは、きっと七福神(しちふくじん)だったんだよ。七福神は、あんたが気立てのやさしい嫁さんだということを知っていて、あんたを助けてくれたんだよ。死骸と見せかけて、宝をくれたんだよ」そう言ったと。
思わぬ福が舞い込んで、この家は見違えるように、暮らし向きがよくなったと。
昔こっぽり、てんぽろりん。
類話の主な採話地
岩手県室根村
新潟県豊浦町
島根県仁多町
香川県香川町
大分県大野郡

●12月号の目次へ