21世紀の地域づくりへの提言
普遍的なもの見直し、磨こう
心和やかな暮らしもカギに
インタビュアー
草柳文恵
この夏、ミュンヘンからヨーロッパに入り、ザルツブルグ、ザルツカンマーグート、ウィーンを訪れました。
ミュンヘンのノイハウザー通り、カウフィンガー通り。ザルツブルグのゲトライデ通り。ウィーンのケルントナー通り。
ご存知の方も多いと思いますが、いずれもその町でいちばんの繁華街、代表的なお買い物通りであり、いつも大勢の人びとでにぎわう歩行者専用の道です。
安心して歩けるは基本
そぞろ歩いていてうれしいのは、歩行者用ですから通りのあちこちに木々が植えられ、木蔭のあること。その下にベンチが置かれている(ゲトライデ通りは例外ですが)ので、気軽にひと休みできること。スピーカーから音楽を流したりするお店がないこと。
そうした雑音の代わりに、街角ミュージシャンというのでしょうか、ギター、フルート、声楽、弦楽四重奏、アンデスのフォルクローレなどなど、さまざまなパフォーマンスに出会います。何か決まりがあるのかどうか、それぞれが距離と時間をおいて演奏しているので、右から声楽、左から笛の音が混ざって不協和音が聞こえてくるなんていうことはありません。
上手なパフォーマーのまわりには人垣ができて、感心したように聴き入っている人びともいます。しつらえたイベントにではなく、自然に人が集まり、和やかな空気が醸し出されているその光景は、何度目にしても本当にいいものです。あらゆる年代の人が安心して歩けるというのは、まちの重要な基本なのではないでしょうか。
日本にも週末は歩行者天国になる通りがありますが、雰囲気は大部違います。町の成り立ち、つくりがそもそも違うからでしょう。去年初めて訪ね、すっかり気に入ってしまったのがドイツのマインツという町です。
温かな雰囲気の朝市
フランクフルトから特急電車で三十五分のところにある人口十八、十九万のラインワインのふるさと。ライン川とマイン川の合流点に位置し、秋にはワイン祭りも開かれます。
ワインもさることながら、十五世紀に印刷術を発明したグーテンベルグの出身地としても有名です。旧市街には、当時の印刷法の実演も見られる「グーテンベルグ博物館」があります。
その向かい、町の中央に厳かなたたずまいをみせるのが、ケルン、トリアと並びドイツで三本の指に入る大聖堂(ドーム)。マインツは中世ドイツ最大の司教区だっただけあって、その姿は堂々たる風格に満ちています。
そのドーム広場で週三回、朝市が催されます。野菜、果物、花、ドライフラワー、ハーブ類、ピクルス、チーズ、ソーセージ、季節にはクリスマスの飾りetc。ヨーロッパでは朝市の開かれる町はたくさんありますし、日本でももちろん、おなじみです。
ただ、マインツの朝市がとくに印象的だったのは、何とも温かな雰囲気に満ちていたのと、屋台で食べたスープ(牛と鶏と二種類ある)とソーセージ、パンという朝食が素晴らしくおいしかったから。
二人で買い物かごを下げて歩いて来た年配のご夫婦も、満足そうな面持ちでスープをすすっています。あんまりおいしいので(かどうかきいたわけではありませんが)、屋台のはしごをしているおばさんもいます。
感動を与える“日常の営み”
このドームは九七五年に起工されたそうですが、ドームを中心としたこういう生活がおそらく何百年もこの町では続けられてきたことでしょう。何世紀にもわたって町並みはその姿をとどめ、そこで普遍的な暮らしが静かに脈々と受け継がれている。そのことに、深い感動をおぼえたものでした。
観光客を呼び込むためにしつらえたものなど、ひとつもありません。地場の人たちがふつうに暮らしている、その日常の営みそのものが訪れる者の目を楽しませ、感動を与えるのだと気づかされたのでした。
日本だったらどうでしょう。古いお寺の前に、観光客目当てではない、土地の人びとが日々の暮らしのために集う市があれば、外から来た人びとにも大いに感じるところがあるでしょう。
地域づくりには、新しいことに果敢に取り組む気概も必要でしょうが、その前に、普遍的なもの、変わらないものを見直し、それにじっくりと磨きをかけることが大変重要なのではないかと思います。
その地域に住む人たち自身が快適に、心和やかに暮らしているかどうか。そして、古くから受け継がれてきたもの、いま現在あるものをどう活性化してゆくか。
それが、地域づくりのカギになるのではないかと感じています。
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