
とんと昔メルヘン 其の7
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猫と釜蓋(ねことかまぶた) |
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文 榛谷泰明
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イラスト 田島ムーズ
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とんと昔あったと。
ある山里に、狩人(かりうど)と母の二人が住んでいたと。その家では、一匹の猫を飼っていたと。猫はかなり年を取っているらしく、大きな体付(からだつ)きをしていたと。
その頃、近所では、夜な夜な、山猫が現れて、家々に悪さをして困る、という話がもちきりだったと。
明くる日のためにと作っておいたおかずが夜のうちに、山猫に食い散らされてしまったとか、障子(しょうじ)の紙をみんな破られてしまったとか、夜中に赤ん坊がかじられたとか、山猫の悪さは、日に日に、つのっていったと。
そこで、狩人が山猫退治(たいじ)をすることになったと。まず、鉄砲で撃(う)つ弾丸(たま)を作らなければならない。
狩人は囲炉裏に鋳鍋(いなべ)をかけ、鍋で鉛(なまり)を溶(と)かして、鋳型(いがた)に注ぎ込んでは、一つ一つ、弾丸を作っていたと。猫がそれを見ていたと。
狩人が弾丸を一つ作れば、猫は一つ頭をさげてうなずく、また一つ作れば、また一つうなずく。狩人は十二の弾丸を作ったと。猫はだから、十二回うなずいたと。
さて、狩人は鉄砲をかついで、山へ行ったと。山の中をあちこち探し廻ったが、山猫は見つからなかったと。そのうちに日が暮れたので、狩人はいつも使っている山小屋に入り、夜を過ごすことにしたと。
真夜中になると、山小屋の表で、ガサゴソと音がしたかと思うと、ギャーオッと気味の悪い鳴き声がしたと。
「山猫が出たな」と、狩人が跳(と)び起き、戸を開けたと。
ギャオー! 闇の中から鳴き声がしたと。狩人はさっそく鉄砲に弾丸をこめ、鳴き声のした方をうかがうと、闇の中に何やらうごめいているものがいたと。
「あそこだな」と、狩人が狙(ねら)いをすまして、撃ったと。
ズドーンとやると、チャリーンという音が返って来たと。変だな、と思いながら、狩人がもう一度一発、ズドーンと撃つと、またチャリーンという音が返ってきたと。
「確かに当たっているのに、倒れない。こりゃきっと、得体(えたい)の知れない化け物にちがいない」
狩人はそう思うと、急に恐くなってきて、弾丸をこめるのももどかしく、次から次へと撃ったと。撃って撃って、撃ちまくったと。
十二発、撃ち尽くしたが、やはり化け物は倒れずに立っていたと。それどころか、狩人の方へ向かって来るような様子を見せたと。
狩人はしまってあったお守りの弾丸を出したと。それは金の弾丸で、猟(りょう)に出るときには、肌身離(はだみはな)さず持って行く、最後の頼(たの)みの弾丸だったと。狩人は素早(すばや)く、金の弾丸をこめると、狙(ねら)い定(さだ)めて、撃ったと。
ズドーン! ギャオーッ! ものすごい鳴き声をあげると、化け物はひっくり返ったと。狩人が近づこうとすると、化け物はむっくり起きて、闇の中へ駆け込み、姿をくらましてしまったと。
夜が明けて、あたりが明るくなるのを待って、狩人は表に出てみたと。鉄砲を撃った方向に歩いて行くと、茶釜(ちゃがま)の蓋(ふた)がころがっていたと。そしてその周(まわ)りには、十二の弾丸が散らばっていたと。さらによく見ると、地面に血の跡(あと)がしたたっていたと。
狩人が血の跡をたどって、山の中へ踏(ふ)み込んで行くと、大きな猫が血まみれになって、死んでいたと。その猫は狩人の家で飼っていた猫だったと。
狩人は、何か不吉(ふきつ)な予感(よかん)がしたので、大急ぎで山を降り、わが家に帰ったと。
すると、囲炉裏にかけておいた茶釜の蓋がなくなっていたと。
「母さん!」と声をかけたが、返事がない。
狩人は、母の寝床(ねどこ)がある部屋の障子を開けてみたと。驚いたことに、母は猫にのどを噛(か)み切られて、死んでいたと。
昔こっぽり、てんぽろりん。
主な採話地 島根県仁多町など
●結び言葉あれこれ
初めての語り部に会ったとき、私はかならず次の質問をします。「語り始めと語り終わりはどんな言葉ですか?」
それに対して、その地方独特の語り始めと終わりの言葉が口をついて出るならば、その語り部は優秀な伝承者と判断できるからです。各地で耳にした語り納めのことばのいくつかを紹介しましょう。
青森・岩手「どんどはれ」
秋田「とっぴんぱらり」
山形「とんぴんからりんねっと」
宮城「えんつくもんつくさけたの」
福島「いちがさけ申した」
新潟「いちご昔がつっさけた長門の長ぶちブランとさがった」
群馬「いちが酒買ってとうやが飲んだ」
長野「なんぼごんぼスイホロケごんぼ煮てお客しょ」
岐阜「まっくろけの話」
福井「それべったりかちんこ」
京都「これが昔の種くさり」
鳥取「昔こっぽりトビのくそ」
岡山「昔こっぷりドジョウの目」
広島「まっこうひと昔」
高知「昔まっこう猿まっこう」
鹿児島「そいこん昔」「昔語って候」

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