|
|
|
|
|
新潟県小木町 海、“産業”振興から“保養”の場へ 「千石船の里」つくる |
|
小木町町長 |
|
|
佐藤 實 |
|
|
|
|
小木町は佐渡島の最南端に位置し、三方は海に囲まれ、海岸線(三十六キロ)の半分は「名勝・天然記念物佐渡小木海岸」に指定されている。江戸時代には、北前船(千石船)の中継港として、「入船千艚(そう)出船千艚」といわれたほど繁栄したものである。そして、今日、「海」への価値観が「産業振興の場」から国民共有の「保養とレクリエーション活用の場」へと変わりつつあることを実感している。
当町で新しいマリンスポーツの導入による地域活性化策として、スキューバーダイビング施設の建設計画が持ち上がったのは、昭和六十年代であった。当時は磯ネギ漁(舟からのぞきめがねで、モリで突いてとる漁法)と無法ダイバーによるサザエ、アワビの密漁が横行し、警察が出動する騒ぎが日常化していた。
このため、漁師とダイバーの共存共栄策として、「小木方式」といわれる潜水開放区域を設定した。それは漁場管理と漁業操業の権益を尊重するなかで、海洋・海浜のレクリエーションおよびマリンスポーツの健全な発展をも目的とし、漁協・管理組合・町の間で締結したものである(昭和六十三年)。
区域外での潜水禁止を徹底するため、海岸に啓発看板の設置や、地元住民にはチラシを配布してPRに努めたところ、以後区域外での潜水はもちろん、無法ダイバーも皆無となった。
町では、ダイバーが安全にダイビングを楽しむため、エアー充填(てん)、シャワー施設を建設し、ダイバーの受け入れ態勢の整備を図った。施設の維持管理と地域活性化のため、地元住民による「南佐渡海洋公園管理組合」も設立した。
これが「公設民営方式」による海の活用事例のスタートだった。当初、六百人の利用者を予定していたが、実際は千人を超えた。このため、ダイバーの要望を入れ休憩・宿泊施設も建設した。
管理組合は、運営資金三千万円を農林金融公庫、漁協などから借り入れて発足。ダイビングセンター、クラブハウスに各二人とインストラクター二人の計六人が常駐。繁忙期にはパートを雇い入れるなど、地元若者の雇用の場にもなっている。
発足して五年目(六年)には、単年度収支が黒字に転換し、累積赤字の解消も間近となっている。借入金の返済も、十二年には完了の予定である。親水をテーマにした交流事業にも力を入れ、「マリンフェスティバルin佐渡島」を毎年十月に開催する一方、女性が三人くると一人を無料とする女性ダイバーサービス事業を行っている。また、各種イベントも実施し、誘客に努めている。
「漁師体験事業」にも取り組んでいるが、これには年間四百人余の修学旅行生の利用がある。佐渡島へのダイバーの入り込み数は、元年の三千百人から八年には七千二百人へと急増し、地域経済に少なからず効果を与えている。
三年、宿根木地区が国の重要伝統的建造物保存地区に指定されて以来、「千石船の里づくり」が始まった。江戸時代、千石船の基地だった宿根木地区には、回船問屋、舟大工、鍛冶(かじ)屋、船頭、水夫らが多く住み、千石船にかかわる総合産業が活気を帯び、佐渡島の富の三分の一が蓄えられていたという。
「町並み保存地区」に指定されたことにより、現在、住んでいる一般家屋を景観保存のために改築する場合には、改築費の一部を補助する制度を設け、年々、町並みが当時の面影に近づいている。
町は四年から山村振興等農林漁業特別対策事業を導入し、農山漁村の生活体験ができる「体験学習館」や「アトリエハウス」「海中公園遊歩道」を整備した。八年からは「千石船(五百石積み)復元プロジェクト」が動き出している。親水イベントに、忠実に史実を再現した千石船がその偉容を現す日も近く、関係者は期待に胸を膨らませている。
九年四月、佐渡弥彦米山国定公園の矢島・経島に、おしゃれな漁業体験施設が完成した。管理運営は矢島観光管理組合で、目玉は「たらい舟」。美しい海底を見てもらうため、新しい「海中透視たらい舟」をつくったので、子供たちの利用がこれまでの年八百人余から急増する勢いにある。
小型定置網も設置され、実際に網揚げ体験ができ、とったサカナで調理・試食するコーナーも設けられている。小木町の海はワカメ、アラメ、モズクなどの海藻類が豊富だが、養殖が盛んになったことや中国、韓国から安い輸入品が急増し、天然物の採取は採算が合わず、消滅寸前の状態になっている。
そこで町では五年から観光と第一次産業との連携を図り、相乗効果を上げる狙いから、町・漁協・農協などが中心になって、第三セクターの「(株)小木まちおこし公社」(資本金一千四百万円)を設立し、特産品開発に乗り出している。
手作りと純天然物へのこだわりをキーワードに「いごねり、もずく、ながも、いももち」などの海産物・農産物を生産している。生産高はまだ少ないが、今後の活動が期待されているところである。
当町の長い海岸線の大部分は自然公園法の「特別地域」に、半分は文化財保護法の「天然記念物および名勝」にそれぞれ指定されるなど、土地利用の規制がいく重にも重なっている。また、建設、運輸、農水省の護岸工事、港湾、漁港整備事業が進められ、他市町村に比べ、自然環境は保全されているほうである。
しかし、現在、公共工事の一割削減が中央で声高に叫ばれ、これが実行されると、当町の環境保全もお座なりになることが懸念される。海洋・海岸線は国民共有の財産で、海洋レクリエーションの場として再認識されている。
このことから、これまで以上に海洋・海岸には、ビオトープ(多自然型)思想を明確にした環境保全手法が重要になろう。豊潤な海には多種類の魚介類が棲息し、海岸線には豊富な生物が生命をはぐくめるビオトープ時代が到来することを念願するものである。
![]()
|
|
|