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高知県大方町
町全体が美術館
今後、エコツーリズムにも

大方町砂浜美術館事務局

周治貴伸

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鯨ウオッチングに二万人

 高知県西南部に位置する大方町は、国内有数の日照時間と年間を通して温暖な気候に恵まれ、眼前には黒潮流れる太平洋を望む。この風土にはぐくまれる人びとの気質は、一般的に開放的で陽気である。また、ハウス栽培や園芸品種をはじめとする農業が盛んで、漁業を含めた一次産業が人口一万一千人余の町の基幹産業である。
 日本最後の清流四万十川は、西隣の中村市がその最下流となっているが、美しい大河の恵みを受けてか、町の沖合いではニタリクジラや数種のイルカの群れが見られる。八年前に一部の地元漁師が始めたホエールウオッチングも、現在一シーズン(四〜十月)に約二万人近い乗船客があり、人気を博している。
 国内各地で、リゾート整備や美術館・博物館の建設ラッシュが起き始めたバブル期の平成元年に、砂浜美術館はスタートした。美術館といっても、それにふさわしい立派な建物があるわけでなし、いや実は何もなく、町には砂浜を中心とした豊かな自然と、その恵みを受けた人びとの生活があるだけである。
 「私たちの町には美術館はありません。美しい砂浜が美術館です」をコンセプトに、砂浜美術館の活動は展開される。

「Tシャツ」「はだしマラソン」など

 長さ四キロの砂浜が美術館だとすると、その展示作品は多岐にわたる。たとえば、沖に見える鯨やイルカ、砂と波がつくる模様、海の向こうから流れてくる漂流物、砂浜に残った鳥の足跡など。はだしで砂浜を走る子供たちや砂浜で遊ぶあなたでさえも立派な作品である。BGMは波の音、照明は静かに降りそそぐ月の光。三百六十五日・二十四時間オープンしている砂浜美術館…。
 また、館内の常設展はそれらの自然だとすると、それらを活用し、より引き立たせるために行われてきた企画展には、次のようなものもある。これらはその企画にふさわしい季節ごとに行われてきた。
 長さ四キロの砂浜で、写真と絵画の作品(全国公募)をTシャツにプリントし、芸術作品として展示する「Tシャツアート展」。「シーサイドはだしマラソン全国大会」。黒潮に乗り流れ着いたもの(ゴミ)にスポットをあて、そこから環境問題やロマンをくみ取ってみる「漂流物展」。
 砂浜沿いに十一月ごろ咲くらっきょうの「花見」。らっきょう畑を囲む松原には、公募で寄せられたパッチワークキルトが潮風にはためく「潮風のキルトコンテスト」。平成元年から六年の一大イベントのひとつとして行われた「砂の彫刻展」。「入野松原の再生」。その他、多数。
 私たちは、自然そのものや前記の催しだけを取り上げて、単に砂浜美術館と称しているのではないし、その自然や催しによる観光客の誘致のみに重きをおいているのでもない。

「自然」「人の活動」見直す

 その活動は、地域の中の自然やそれとともにあった生活・風土・産業、それらをつくり、伝えてきた人間の活動を含めたさまざまなものを、町の資源として改めて見つめ直すことを基本としている。そして、地域においても、価値あるものとしての認識が薄れてきつつあったそれらのものを積極的に活用し、町の活性化に寄与していく仕組みを作ることを目標としている。このような手法はフランス発祥のエコミュージアムの考え方にも、共通点を見いだすことができるといえよう。
 これらの考え方を具現化していくには、根気強さも要求されるが、自らのまちを楽しむ気持ちやプラス思考も必要である。とはいえ、それらは単なる懐古主義や、近視眼的な視点からのみの評価であってはならない。むろん、経済的な効果を配慮したものでなければ意味を持たない。
 そのような点を踏まえたうえで町内を眺めてみたとき、多様な地域資源が存在していることが分かる。
 たとえば、黒砂糖の生産。江戸時代の文献にも高品質とうたわれている当地域の黒砂糖は、生産が長期にわたり中断されていたが、その伝統を復活させようと、六年前、経験者を中心に生産を復活させた。現在では徹底した手作りにこだわった商品の差別化が受け、市場での人気は高い。
 竹細工などの手工芸品も、確かに後継者問題などがないわけではないが、熱心な固定客もついている。ホエールウオッチングも不振が続く漁業従事者が、自発的にその価値に気が付き、事業を始めたものである。また鯨やイルカに代表される、豊かな自然を背景にした生物種の多様性も町の大きな資源である。

町民こそ最高の作品

 県立公園整備予定地内には、年間約百七十五種の野鳥が生息および飛来する町内の湿地帯がある。これは町内の熱心な愛好家の継続的な観察により価値が認められたもので、付近一帯は住民の直接参加によるワークショップで野鳥公園として整備する計画である。時代背景とともに重要視されてきた感のある環境教育や、増加する修学旅行客への利用供与など、今後の活用が期待される資源である。
 私たちが、直接的に多くの事業の復活や運営にかかわってきたわけではないが、砂浜美術館の活動により、身の回りのものや空間の価値を改めて見つめ直す動きが、町内で出てきている。砂浜美術館の今後の課題は、資源としての数々の素材や人びとを、そのコンセプトの基に繋ぎ合わせる作業を担当していくことである。それらの作業により個別の資源がより生かされ、かつ町全体の魅力を大きくアピールすることができると考えている。つまりは、個と全体の相乗効果である。
 また、近年注目されつつあるエコツーリズムへの本格的な取り組みも、九年度からスタートさせる予定である。楽しく美しいまちが美術館であり、そしてそんな町の住民こそが最高の作品であり、学(楽)芸員であるといえる町があってもよいはずだ。


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