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岐阜県宮村 “山里の美学”共有へ、 「臥龍桜日本画大賞展」 村の風土、全国にアピール |
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宮村学芸員 |
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不動美里 |
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宮村は岐阜県飛騨地方の中央に位置し、総面積五一・八九平方キロのうち、約九二%が山林によって占められている。霊山として名高い位山は飛騨分水嶺をなし、ここに源を発する宮川は宮盆地を貫通して下流で神通川となり、富山湾へ注いでいる。
豊かな源流の森をたくわえる位山は、かつて飛騨の匠が都へ通った宮道「位山街道」の石畳や、はるか縄文文化の遺物をいまにとどめる歴史の山である。また、近年は岩刻画(一説にはペトログラフ)や巨石遺構といった先史美術を彷彿とさせるような岩々の存在でも、脚光を浴びている。
この位山のふもと、静かな山里で一千年余りの歴史をひたすら見つめてきたのが「臥龍桜」である。高さ二十メートル、枝張り三十メートルに及ぶ国指定天然記念物で、枝振りがちょうど龍が臥している姿に似ているところから、この名で親しまれている。
「臥龍桜日本画大賞展」は、平成元年ふるさと創生事業の一環として、村のシンボルである臥龍桜を記念し、日本画の美を通した地域文化の振興を目指すという企画が発端となり、誕生した。
既成の分野や会派の枠を超え、未来を担う真摯で創造力ある作家の発掘と、日本画の新たな可能性の開拓を目指す公募展として、二年に第一回展を行った「臥龍桜日本画大賞展」は、八年度で七回目を迎えた。初回のみ画題を「臥龍桜」としたが、第二回以降は自由とし、広く現代人にとっての日本画表現を追究する公募展として定着してきた。
審査は故加藤東一(日展顧問)、月岡栄貴(院展同人)、稗田一穂(元東京芸術大学教授)、土屋礼一(金沢美術工芸大学教授)、伊藤嘉晃(院展特待)、平光明彦(岐阜県美術館学芸部長)という現代の美術界を代表する先生方にお願いし、多大なご尽力をいただいてきた。
大賞一点(賞金百五十万円)・優秀賞二点(各七十五万円)・佳作賞三点(各五十万円)をはじめ十二の賞を設け、入賞・入選合わせて約百点を選出する。大賞・優秀賞・佳作賞の各作品は村の所蔵となり保管される。入賞・入選作品は宮村展を皮切りに岐阜展、名古屋展、そして東京展と各地を巡回する。
回を重ねるごとに、応募作品の点数は増加の一途をたどり、レベルも向上してきた。第七回展では全国三十七都道府県より三百八十三点の応募があり、美術界における本展のアイデンティティも確固たるものとなりつつある。展覧会は「臥龍桜」を冠し、村の豊かな風土を全国にアピールする一方、村民にとっては地元の良さを再発見する起爆剤として機能している。
展覧会の企画運営は村が主導で行うものの、村民による実行委員会が主力となって計画を推進している。また地元宮村展の入場者数は第七回展で過去最多の三千五百人を記録し、人口二千六百余人の村としては、飛騨地域一帯を巻き込んだ展覧会として成果を収めている。
「早春の宮村の美しい風景が見られること、そして顔も知らない私が描いた絵の入賞をまるで自分のことのように喜んでくださる村の人びとに会えること、それがこの公募展の大きな魅力です」―これは八年度、第七回臥龍桜日本画大賞展表彰式における大賞受賞者・倉元敏見さん(金沢市・二十七歳)のスピーチである。
「数多くの公募展があるけれども、ここは本当に自由な発表ができる場として大変貴重です。入落に特定の傾向があったりするとどうしても策略的になりやすいが、この展覧会では真に自己研さんできます」と語るのは、優秀賞を受賞した林森次さん(岐阜市・四十四歳)。画歴二十二年目に初心にかえって取り組んだ作品が評価された。
もう一人の優秀賞受賞者、張堅さん(上海出身・京都市在住三十五歳)は、幼少より学んできた水墨画に飽き足らず日本に留学し、日本画で新境地を拓いた。「いまの中国は経済成長優先で文化が危機に瀕している。私は日本から作品でメッセージを送っているんです。日本画の画材は私に適しています。東洋と西洋の良さを融合して、自分らしい新しい表現を追究してゆきたい」と、志は熱い。
優れた作品を生み出す清新な力は、決して画布の上だけのものではない。展覧会とは作品を媒介に人と人が出会い、語り合い、つながり合う交流の場である。「クリエイティブな場づくり」こそ、これからの学芸員の務めである。私たちは目下、額縁の内側、そして展覧会場の内側にこめられた創造のエネルギーを、村はもとより広く世界へ開放してゆくための“絵”(構想)を描くのに余念がない。
日本の風土のなかで培われた美意識と、その表現様式は確かに日本人の心を映し出してきた。しかし、二十一世紀を目前にして他の分野と同様、芸術においても近代の枠組みが崩壊しつつある現在、新たな視点で「日本画とはなにか」を模索し、公募展の存在意義を問い直す時期にきている。
先に紹介した大賞・優秀賞受賞者の声には奇しくも時代の課題が如実に表現されており感慨深い。幸い、桜の里・宮村の取り組み「臥龍桜日本画大賞展」は、現代の若きアーティストとともに、来るべき国際・情報化社会に向かって、未来にふさわしい美意識を発見し、新しい価値を共につくり上げてゆこうという挑戦である。
さらに、私たちはこの潮流の行き先に「位山森の芸術館」の建設を夢見ている。有形無形の文化資源を大自然の懐で温め、そして新たに生み育てる「創造の場」づくりである。山を心の拠り所とし、暮らしの中で雪月花を愛でる“山里の美学”を広く共有し合う時代が到来すると確信している。
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