岩手県滝沢村
劇団 ゆう

文化の地方発信を実証
地域密着の姿勢、実結ぶ

都市化著しい“大村”

 東京から東北新幹線で三時間半。盛岡駅で下車、二十分ほどバスに揺られると、「南部片富士」と呼ばれる岩手山が迎えてくれる。滝沢村は近年、県都盛岡市に隣接する地理的環境と交通網の進歩から都市化が著しい。人口も四万五千人を超え、全国第二位の大村である。岩手山のすそ野に広がり、宮沢賢治も中学時代に三十回も登ったほどの美しい山並みと、清流の自然は、賢治の想像力を掻き立て、数多くの作品の舞台となった。
 登山シーズンには、多くの登山客でにぎわう、という。全国に誇れる自然と風景との共存を目指して、村は「快適環境が創造された活力とやすらぎのあるまち」づくりを進めている。この村で演劇を取り入れ、村民と村出身者だけで活動しているのが「劇団 ゆう」である。

無感動な子に危機感

 始まりは昭和四十七年。滝沢村には青年演劇があった。そこで、菊田悌一さん(四七)は演劇を学び、四十九年以降、作・演出を手掛け、全日本アマチュア演劇連盟創作脚本賞などを受賞、脚本家としても活躍するようになった。しかし六十二年からは活動を休止していた。ところが、この菊田さんが平成三年に、再び演劇活動に携わるようになる。急速な都市化とともに、子供の環境の変化に危機感を募らせたからだ。
 きっかけは、子供とのTVチャンネル争いだった。昔は負けたほうも、一緒に同じTVを見ていたが、いまの子供は、チャンネル争いをすることもなく、他の部屋にいき、他のTV番組を見たり、ゲームをする。また、住宅地には、若い共働きのサラリーマンが多く、家族そろって食事することができない家庭が多い。都会的生活パターンへの変化は、子育てを学校や子供会に任せっきりにする環境を生む。そして、生命を慈しみ、心を沸き立たせて、感動することのできない子供の増加へとつながっていく。菊田さんは、家族のコミュニケーション不足が気になっていた。そんなとき、かつての青年演劇のメンバーが集まった席で、日ごろ感じていた子供環境の変化についての疑問をぶつけたところ、ほとんどが同じ疑問をもっていた。
 喜怒哀楽がない子供にさせてしまったのは、そういう環境しかないからではないか。そこで、自分たちが経験してきた演劇で、子供たちに主体性を持たせ、世代を超えた創作の喜び、人と人とのつながり、そして地域との交流を通じて、感動を共有させたいと思い、「劇団 ゆう」が結成された。

支援、親の会もできる

 四年から、年一回公演を行い、入場無料で現在まで五公演している。十六人でスタートしたが、いまでは「劇団 ゆう支援の会」もできた。「支援の会というのは、仕事を持っている人が、手が空いているときに、地域のために何かやりたい、とだれからともなく集まってできた会なんです。だれでも自由に参加でき、一年に一回、公演のときしか会わない人もいるんです」と菊田さんは笑う。
 支援の会のメンバーは、ほとんどが村民である。地域交流が意外なところから生まれ、公演を重ねるごとに人数も増え、劇団の活動が地域に浸透してきている。採算を考えず、地域にこだわって活動を続けてきたことが、村民の理解を得ることができ、村民とともに感動を共有できるようになっている。
 第一回公演後には、子供たち五人が加入、「子供組」もできた。子供全体で話し合った意見が、子供組の意見として、大人の意見と同等の扱いをされ、検討されるようになった。一方、子供団員の親たちが中心となり、子供たちの送迎や衣装の制作、練習後の差し入れなどを行う「親の会」ができた。

芸術祭の柱的公演に

 第四回公演では、念願のミュージカルに挑戦した。ダンス指導には盛岡市在住の国際的ダンサーを、音楽にはプロの音楽家を迎え、恵まれた環境でミュージカル劇団を目指してのスタートを切ることができた。これら講師も劇団の活動に共感し、協力を快諾された。
 そして、もうひとつの大きな変化があった。劇団をバックアップする演劇施設ができたのである。収容数五百人の多目的ホール「滝沢ふるさと交流館」がそれである。滝沢村では「芸術祭たきざわ」が行われ、地域に定着している。その中で「劇団 ゆう」の公演は祭りの柱となっている。交流館は村民の文化芸術活動、生涯学習のためにつくられたもので、日本初の地域劇団活動支援施設といえる。
 第五回公演では、「子供組」がストーリーを考え、滝沢村を題材とした創作民話を上演。「日本むかしばなし」でおなじみの俳優、常田富士男さんらプロの出演および演技指導を得、スタッフ、キャスト合わせて百人を超える大掛かりな舞台となった。
 このように「劇団 ゆう」は、一地域のアマチュア劇団ながら、常に優れた指導者に恵まれ、文化レベルの高い交流が行われている。文化は必ずしも中央からのみ発信されるものではない、ということが実証された公演であった。
 これも「劇団 ゆう」が当初から、地域に密着した住民参加による文化、あるいは教育活動として多くの人たちに共感を与え、「自分ができる範囲で何か手助けしたい」と思わせる、地域とのつながりを一番に活動してきたことが、結実したのであろう。この姿勢が変わらない限り、今後さらに「地域の中にある劇団」として成長していくことだろう。

劇団 ゆうプロフィール

●設立=平成三年十一月二十日 
●設立、運営主体=自主的組織
●代表者=菊田悌一 
●会員数=四十三人
●事務局=岩手県岩手郡滝沢村鵜飼字細谷地一四六-一八 Tel.019-687-2733


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