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第六次産業の創造を 21世紀農業を花形産業にしよう |
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日本女子大学教授・東京大学名誉教授 (財)二十一世紀村づくり塾副塾長 |
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今村奈良臣 |
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「二十一世紀は食糧の時代になる。そして農業は二十一世紀の花形産業になりうる。農業ほど生産から加工、販売に至るまで創意と工夫を活かせる仕事はない。そのうえ、サラリーマンはライフ・ワークを誇れるものはほとんどないが、農業はライフ・ワークを誇れる数少ない職業のひとつである。どうか胸を張り、誇りと自信をもって明日をみつめて頑張って欲しい」
私は全国各地で、農民塾、村づくり塾などの塾長をしているが(そして(財)二十一世紀村づくり塾副塾長)、その若き塾生たちにいつもこう呼びかけている。
市町村長や農協組合長など農村の指導者の多くは、口を開けば「わが国の農業を取り巻く内外の環境はますます厳しく、まさに危機的状況にある」というような趣旨を述べる方が多いが、それでは、農業を目指そうという青年たちでも「そんなら俺はやめた」ということになりかねない。意欲ある若者を農業の分野から追い出すという逆効果さえもたらしているのである。
指導者を任じる者、指導者の立場にある者は、すべからく「厳しい」とか「危機」という言葉を胸の中、腹の中に納め、明日はどうするか、来年はどうするか、二十一世紀はどうするか、その戦略、戦術を構想し、地域農民、とりわけ将来を担う若者に、希望と自信と誇りを与えるために、何をなすべきか指し示すことにあると私は考えている。
「農業ほど人材を必要とする産業はない」というのが私の信念である。人材をいかに増やすか、という考えのもとに十二年前から全く自発的に農民塾運動を進めてきたのである。
では、人材とは何か。私の考えでは、人材とは、(1)情報力、(2)技術力、(3) 企画力(または販売力)、(4)経営管理力、(5)組織力−のそれぞれに優れているだけでなく、それらすべてを総合力としてしっかり身につけている人物のことである(図参照=省略)。
ごく簡単にそれぞれの要素を説明しよう。情報力の基本は情報発信力である。発信力を高めるには受信力も強くないとだめである。
技術力は先端技術と伝統技術の両方を身につけることである。
企画力は販売力と言いかえてもよい。作り上手の売り下手ではこれからはやっていけない。
経営管理力もこれまでは一般的に低かった。あらゆる面でこれを高めなくてはならない。
組織力はますます必要で農業は一人だけでは大きな成果は望めない。
この五つの要素の総合力をいかに高めるか、図を見ながら考えて欲しい。
農業に従事しようという若者が、長期にわたる減少傾向を脱し、少数ながらもここ数年増加傾向にある。しかも、重要な点は単に量的変化にとどまらず、「世襲から選択へ」という質的変化を示しつつあるという点に注目すべきであると思う。
今年度の『農業白書』によれば、九四年度の新規学卒就農者は二千百人、三十九歳以下のUターン就農者は四千二百人となっている。
このように、新規就農者の絶対数は決して大きくはない。新規学卒の就農者数についてみれば、採用者数の多い大企業の一社分程度にしかすぎない。
また、農林水産省は、二十一世紀の日本農業をその中核となって担う経営体を四十万程度と構想しているが、それを確保するためには、Uターン組なども含めて年間一万人を上回る新規就農者が欲しいことになるが、現状では、まだ量的にはその半分にも充たないことになる。
しかし、就農する若者たちが、自らの意思でいろいろと選択の余地のある職業の中から、農業という職業を選ぶようになったことに注目する必要があろう。
『白書』は農業に就いた理由について、Uターン青年たちが、「やり方次第でもうかる」「時間が自由に使える」「自分でさい配がふるえる」ことなどを挙げている。こういう自発的意思に基づく理由が「家の事情」や「財産を守る」という消極的理由を上回っている。
また、かつては農業に無縁であった都会出身の新規就農者の就農理由には、「自然や動物が好き」「有機農業をやりたい」などという、農業へのあこがれが強い。
さらに、今年の『白書』の興味深い指摘は、「若い担い手の就農経路の変化」に注目していることである。その要点は、高校などを卒業してすぐ農業に就業する「新卒型就農」よりも、農業以外の他の産業に一度就職した後に、農業に自らの意思で本格的に従事する「転職型就農」が主流になってきたという分析である。いわゆるUターン就農がその典型である。
「やり方次第でもうかる」「さい配がふるえる」という就農理由は、農業と他産業のサラリーマンを比較して選んだことをうかがわせるし、農業の優れた点を客観的に見直したうえでの職業選択を行っていると言えるであろう。
数ある職業選択肢のひとつとして農業を位置づける若者たちが増え、「世襲としての農業」から「職業としての農業」に変わりつつあるとすれば、まさに心強い限りである。
かつて、十数年前、私はアリメカ農業の底力と活力はどこにあるのかと自らに問い、アメリカで農村調査、農場調査を行ったことがある。
その結論を簡潔に述べれば、長男でなくても次男でも三男でもよい、親から農場と経営権を買ってでも農業経営者になりたいという息子(娘でもよい)に農場は継承されていくというところに、アメリカ農業の底力と活力があると考えた(詳しくは拙著『揺れうごく家族農業』柏書房)。
別の表現で言えば、自己選択の論理、自己責任の原則が貫かれているところに、その底力や活力があると痛感したのである。
こうしたアメリカでの農村調査や日本の優れた農業青年たちと交わる中から「農業ほど人材を必要とする産業はない」という信念を持つにいたった。
「六次産業」という言葉を、読者の皆さんは多分まだ耳にしたり、目にしたりしたことはないのではないかと思う。最近、私が提唱しはじめた言葉だからである。
では、「六次産業」とは何か。「一次産業」と「二次産業」と「三次産業」を足し算すると「六次産業」ということになる。
周知のように、産業分類では、一次産業は農林水産業、二次産業は鉱業、建設業、製造業など、三次産業は卸売・小売業、金融業、運輸通信業、サービス業などを指しているのであるが、この三つを足すとはどういうことか、疑問に思われる方が多いと思う。
そこで私の提唱したいことは、「農業における六次産業の創造」、あるいは「農業の六次産業化」というところにある。分かりやすく言えば、これまで農業は農業生産過程のみを担当するようにされてきて、二次産業的な部分である農産物加工や食品加工、あるいは肥料生産などは食料品製造企業や肥料メーカーに取り込まれ、さらに三次産業的部分である農産物の流通や農業にかかわる情報やサービスなども、卸売・小売業や情報サービス企業に取り込まれていたのであるが、それらを農業の分野に可能なかぎり取り戻そうではないか、という提案である。
具体的にその一端を示してみよう。一九九〇年(平成二年)は、国民の食料消費支出総額は、六十八兆一千億円であったが、そのうち国内農業生産(水産を含む)に帰属した分はわずかに二〇・七%、流通部門に二七・六%、食品加工部門に二六・〇%、飲食店サービス部門に一八・五%となっている(残りの七・二%は輸入)。
国内農水産業のシェアは一九六〇年の四一%から九〇年の二一%に低下し、逆に流通部門は一九%から二八%へ、外食サービスは六%から一九%へと拡大してきている。
すなわち、国民の消費内容が多様化し、加工食品や外食への支出を増大させることによって、消費者は原料である農水産物以外の財・サービスおよび各部門の付加価値部分に対する支出を増大させているのである。こうしたこれまでの動向は、これからさらに一段と強まっていく可能性がある。
しかし、そういう動きを単に座して見ているだけでは、農業の展望は切り拓(ひら)かれないのではなかろうか。農業を農産物原料の生産のみに閉じ込めて、付加価値を農業外の分野にさらわれるにゆだねておいてよいのであろうか。
農業がその主体性をもちながら、二次産業、三次産業に吸いとられていた付加価値を、せめて幾分なりとも確保しつつ、総合産業としての体質に変わらなければならないのではないか、というのが私の提案の趣旨である。そうなれば、さらに若者たちが目を輝かして総合産業としての農業の担い手に意気高らかに参入してくるようになるのではなかろうか。
確かに、農産物加工、食品製造あるいは流通・販売、情報サービスなどについて、これまで農協がその一部を担ってきた。しかし、近年、全国的に見るならば、その活動は前進しているというよりも後退傾向にある。そういう状況の中でも、農協を中心に私の提案するところの六次産業の創造を目指して頑張っている農協がある。
たとえば、大分県の一村一品運動の旗手となった大山町農協である。今から三十数年前、「梅栗植えてハワイへ行こう」をスローガンに山村農業の改革に着手し、梅の多様な産品やキノコ、花などを中心に着実に成果を上げ、担い手を確保し増やし、山村農業の全国的モデルとなっている。
あるいは群馬県の沢田農協も目を見張る活動を進め、六次産業の創造に着実に取り組んできた。管内組合員の作る野菜のほとんどを買い取り、直営工場で漬物加工し、七十種類にも及ぶ商品を作り、「沢田の味」のブランドは関東、東日本ではゆるぎのないものになっている。
そして加工するだけではなく、直売方式で販路を広げ、文字通り六次産業化を図ってきた。そのうえ、今年春に「薬王園」を開設し、薬草の生産、加工、漢方薬の調剤、薬膳料理のレストラン、各種健康ドリンク剤の製造、販売まで行うようになり、訪園者はあとをたたない盛況である。
それはコメとても例外ではない。たとえば、全国的にその草分けとして著名になった山形県の旧遊佐農協、現庄内みどり農協と東京の生活クラブ生協との産直提携である。安全な有機米を生産地でブレンドし、搗精し供給するのみではなく、消費者を生産者が呼び寄せ、さまざまな交流を行っている。二次産業にあたる部分を取り込み、情報、交流、サービスなどの三次産業の分野も開拓しようとしている。
もちろん、このほかにも、本誌で特集されている中の多くの事例は、六次産業の創造を目指していることが注目される。企業的青年経営者や女性グループを中心に、農産物加工や産直、宅配便など多種多様な手段、方法で、独自に農業の総合産業化=六次産業化を目指している。これにより地域に雇用の場の拡大と所得の増大が確保できる。
それは必然的に、広義の農業の担い手の増大、つまり、農業への参入の道が開かれることを意味する。第三セクターや法人化の推進にあたっても、農業の六次産業の創造という視点で取り組んでもらいたいと思う。
〔参考文献〕今村奈良臣他『村づくり活動の基礎理論』、同『村づくり活動の挑戦』(財)二十一世紀村づくり塾刊。非売品で実費頒価は各千円。FAX〇三−五六八九−〇二二五へ申し込むこと
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