tensen.gif

広島県
酒おこしまちおこし研究会
トラストが地域を元気にする

広島酒造りトラスト代表世話人

西林洋治

tensen.gif

●●●トラストへの道

 地酒造りは、その地域の自然的・社会的条件の中で育まれた産業であり、文化でもある。また、酒蔵は美しい伝統的町並みを形成する核となり、それらが、人びとの交流拠点となり、特色ある地域づくりの核となる力を内包しているとの認識から、酒を通して地域づくりに役立ちたいと考えていた。そのような思いから、東京で幻の日本酒を飲む会を主宰する建築家篠田次郎氏の助言のもとに、平成三年四月に“酒おこしまちおこし研究会”を発足し、文化・芸術、まちづくり、国際交流などの専門家・達人たちをゲストに迎えての地酒交流会として、“幻の日本酒を飲む会広島”を月一回のペースで開催してきた。
 平成五年七月、国土庁地方振興局地方都市整備課長時代に“伝統的産業と地域活性化方策調査〜酒蔵を「核」とした地域づくり〜”に携わった山野宏氏(現広島市助役)と地域づくり活動に熱心な竹原市の藤井酒造(株)副社長藤井善文氏の出会いは、トラストの設立を決定づけたといってもよい。一口一万円で会員三百人以上集まれば一タンクをトラスト酒造りに充ててもよいと話が進み、同年九月には発起人会兼第一回世話人会が開催された。
 平成五年十一月三十日、いつも地域づくりの勉強会の場となっている都市小屋サロン「集」で第二回世話人会が開催され、会則、会費、酒質、酒の名称などが決定された。酒の名称は、藤井酒造の当主が先代まで受け継いでいた名前「善七」、酒質は「大吟醸酒」、包装紙には会員全員の名前を印刷、ラベルに記載の「善七」の文字は江戸時代の儒学者頼山陽ゆかりの頼祺一氏(広島大学文学部教授)による書、酒の説明書は墨のアーティスト月下美紀氏といった具合にさまざまな楽しい工夫が凝らされ、かくして、広島酒造りトラストは名実共に産声をあげた。

●●●地域間・異業種間交流

 トラストの活動は、まず、酒蔵の雰囲気に触れることや、酒造りの過程を学び実際にコメ洗いを体験し、蔵人の話を聞きながらさまざまな造りの酒を味わう「酒蔵探訪と美酒に酔う会」、いわば、啓発的活動からスタートした。さらに、二年度目からは酒造りはコメづくりからやるべきだということで、県北の村双三郡布野村の農家に協力いただくことになった。こうした動きが、テレビに取り上げられ、平成六年一月三十日に「ふるさと日本」で全国放映されたことは、活動の大きな励みになると同時に会員の全国拡大の弾みになった。その年の三月にはトラストの新酒を味わってみようと、竹原市の杏竹館で「南ヨーロッパの音楽としぼりたてのトラスト酒を楽しむ」を開催し、地元はもちろん、広島市や周辺の町からも多くの人びとが集まり交流した。生演奏を聞きながらトラスト酒を味わうことができたことは大きな感動であった。
 平成六年五月二十二日、広島県双三郡布野村奥之迫は熱気に包まれた。この地区の人口は百人あまり、そこに、酒造好適米「山田錦」を植えるために広島市をはじめとして、竹原市、下関市など広範囲の地域から、家族、友人、恋人を連れてさまざまな分野で活躍する人びと約百人が集まった。自分たちが飲む酒造りのために都市部から集まった人びとが地元(農村)の人たちとともに、田植えという生産のための共同作業を通じて、都市と農村の地域間交流と相互関係のあり方を考え、話し合い、その中からさまざまな活動の知恵が生まれるきっかけとなる。さらに、そのほか、稲刈り、酒蔵コンサート、酒と食と音楽を題材としたイベントなど、酒とさまざまな分野とを繋げながら人びとが元気になり、地域の魅力となる活動を続けているところである。
 また、平成七年六月には東京地区在住の多くの会員の期待に応える目的で、酒造りを核としたまちづくりをテーマに「酒造りトラストシンポジウム」を、東京都千代田区の日本教育会館で開催するなど活動も大きな広がりをもち始めている。
 広島酒造りトラストの特徴は、事務局は広島市の都心(中区八丁堀)に置き、酒造りは西の小京都といわれる竹原市、コメ作りは県北の双三郡布野村奥之迫とそれぞれの機能に応じて拠点を置き、地域間のネットワークを形成しながら活動していることや、この活動を業界主導ではなく、かつ、会員だけに限らず一般の人びとにも開かれた市民活動として、展開していることではないかと思っている。

●●●広域的なネットワークの形成

 今年の九月で広島酒造りトラストも発足してから満三年になる。会員も全国に五百人余りとなった。活力を維持していくためには、新たな展望を見いだす時期にきている。世話人の面々からインターネットのホームページを開設してはなどのさまざまなアイデアが出されるなかで、とくに力を入れていくべきは、やはりこのような活動組織の広域的なネットワークの形成ではないかと思う。幸い中国地方五県には各県とも、トラストという形式かどうかは別として、「酒を核とした地域づくり」をテーマに活動しているグループが、私が知っている範囲でも二十近くある。これからの地域づくりのキーワードは、交流・連携であり、こうしたグループのネットワークを形成し、相互に新しい血を入れながら、お互いに触発され、あるいは共同で持ち回りフォーラムやイベントを展開できれば、大きな力となりうねりとなっていくだろう。そのための準備はもう始まっている。 
 もうひとつは、このネットワークが地方からの情報発信のための基地を東京に確保することである。東京の市ケ谷に、地域おこし関係者の交流の場として知られ「ふるさと村・東京役場」との異名をもち、いま、店主が病に倒れ休業の止むなきに至っている居酒屋「浪漫亭」がある。私は、これまで培ってきた居酒屋経営と地域づくり活動のノウハウを生かして、これを地域づくりを目指す人たちの複合交流拠店として復活するプロジェクトを推進中であり、そこに酒をテーマに地域づくりに取り組むネットワーク組織の東京事務所機能をもたせたいと考えている。


●前ページへ戻る

●10月号の目次へ