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福岡県八女市
酒づくりと人づくり
教育を通じて地域に豊かさを

(株)喜多屋社長 学校法人八女学院理事長

木下 茂

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●●●喜多屋の酒造り

 喜多屋のある八女市は、九州一の穀倉地帯である筑紫平野の南部に位置する。日本書紀に「山の峯くき重なりて美しきこと甚(ハナハダ)し」と記述されているほどの山紫水明の地であるが、この景色はいまも変わらない。東部と南部になだらかな山並みが幾重にもかさなり、特産品である八女茶の茶畑と田園風景が広がる中を矢部川が静かに流れている。
 喜多屋は、このような水とコメと豊かな自然に恵まれた八女の地に、江戸時代末期の文政年間に創業し、百七十余年の歴史を有する。喜多屋とは、“酒を通して多くの喜びを伝えたい”という創業の志の表れである。
 創業の際に、喜多屋の酒造りの姿勢を決定づけたエピソードがある。一般的に地酒の蔵元は地主・庄屋から興った例が多いが、喜多屋の前身は商人であった。その商家の長男であった初代は、家督を弟に譲り不退転の決意で酒造業を始めた。このように気迫の人だった初代は、レベルの高い酒造りを目指したが雇い入れた杜氏が期待に応えず、そこで杜氏を解雇し自ら蔵に入って酒造りをしたというのである。以来六代に及んで「主人自ら酒造るべし」の家憲を踏襲している。
 そのため喜多屋の酒造態勢は、一般的な蔵元の場合とかなり異なる。一般的には酒造り請負業ともいうべき杜氏に率いられた蔵人制に依っているが、喜多屋はまず社長が技術者であり、さらに技術者の製造部長の下に杜氏を置いている。そして杜氏・蔵人はすべて地元採用の通勤である。要するに杜氏まかせの経験主義ではなく、さりとて大手メーカーにみられるような技術者主導・コンピュータ制御の機械化量産主義でもない。いわば蔵元と技術者と杜氏をはじめとする蔵人とが一体となって、情熱と技術と経験を傾けあった酒造りを志向しているのである。まさに創業の魂がいまに生きているといえる。
 こうした蔵をあげての努力が実り、喜多屋と関連会社である福島酒造(酒名は同じく喜多屋)は、平成四〜六年の全国新酒鑑評会において、いずれも三年連続で金賞に輝いた。また福岡国税局鑑評会においても平成四年の局長杯春秋連続受賞をはじめとして、二蔵とも常に上位に入っている。 
 このようにして丹精された喜多屋製品は、いずれも好評を得ている。華やかでフルーティな香りと柔らかくキレの良い味が、本格的な日本酒ファンのみならず女性ファンにも層を広げている。とにかく「飲んでいただく日本酒ファンに感動を届けたい」という願いを大切に喜多屋は頑張っている。

●●●八女学院の人づくり

 喜多屋社長が、理事長を兼ねる八女学院も同じ八女市にある。こちらは喜多屋の四代目と五代目が中心になって町の有志とともに創立して七十余年になる。
 創立の動機は「われわれは世の恩恵を大きく受けて生きている。教育事業を通して郷土を豊かにすることで恩返しをしたい」ということであった。そういう経緯により経営陣には事業家が多く、昔もいまも理事長以下ボランティアである。
 こうして「役に立つ人物になれ」の校訓のもとに二万人を超える卒業生を世に送りだして今日に至っている。この校訓は、人として幸福へのハウツウを実に分かりやすく説いているが一面に厳しさを含んでいる。なぜなら、言葉を少し変えると「役に立つ学校であれ」「役に立つ理事長であれ」「役に立つ教師であれ」となり、もし役に立たねば学校といえども世間から捨てられることを厳しく戒めている経営訓でもあるからだ。最近生まれてくる子供の数は減少しつづけている。そのうえ周辺の山間部が過疎に向かっているので、一般的に地方の私学経営はたいへん難しくなってきている。
 このような時代に踏みこんだ約十年前、本校は「将来計画委員会」を設置した。役員、教職員、同窓会、父母後援会、評議員会などから選抜した二十一世紀に向かってのビジョンづくりの会議であった。子供の数は減るものの、むしろ質を求めて過熱する教育ニーズ。これらの世の中の変化に対応して、真に役立つ(魅力のある)学校に自ら変化し成長しえなかったら、学校といえども消滅する運命にあるのは世のならいである。
 そこで新しい時代の教育ニーズに正しく応えることのできる本校の機能やいかに、を基本から問いなおし、もし大きく欠けるところがあるなら自らを再構築、いわゆるリストラしようとしたのである。
 時日をかけて検討の結果、1 創立以来の女子校(八女津学園)を改め、男女共学の八女学院とする。2 六・三・三制、戦後五十年の教育制度の歪みを正すために、中学校を設置し既存の高等学校につなぎ中高六年間一貫教育の実現を図る。3 今日の生徒の希望の大半をしめる進学ニーズに高度に応えることのできる機能の充実を図る。4 ビジネススクール的伝統は大切にする。以上の方針により平成四年四月を期して学校機能の再構築、いわゆる本格的なリストラを断行した。 
 それが順調に進み五年目に入ったいま、いよいよ高度な計画の実現を図るため先生方をはじめ関係者一同と心を砕いている。幸い地域のご理解と支持をえて、ここ数年入学してくる生徒数も急速に多くなり、そのレベルも著しく向上している。機能の抜本的な再構築が実を結びはじめ、役に立つ学校として魅力を増してきているのであろう。生徒たちと先生方の目が輝いているのが何よりの証明である。

●●●日本文化の一翼を担う

 まことにもろもろのお陰を感じる。先人からの“持続する志”を受けたことの有難さ。地酒を造って日本文化の一翼を担い、また教育によって二十一世紀を支えて生きる人材を育む。いずれも一隅(地域)を照らす素晴らしい天職を預かったことに責任を痛感するとともに感謝の念を禁じえない。多くの同志たちと責任間を完走し、次代の皆さんによりよくバトンタッチしたいものと切に願っている。


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