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秋田県南外村
コメと水と酒へのこだわり
自然酒の会とむらおこし

南外村産業振興課長補佐

高橋修司

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●●●農業と共に歩む伝統産業

 南外村は人口五千人あまりの小さな山村である。東北を代表する穀倉地帯の仙北平野の南西にあるが、山林が七割以上も占めるため、農家一戸当たりの耕作面積は二ヘクタールにも満たない。コメ以外にもさまざまな作物を手がけてはいるが、これといった規模の大きなものはなく、兼業で農家の家計を支えているといっても過言ではない。
 ところが、とれる農作物の味はすこぶる評判がいい。土壌の関係か水質の関係か確かなデータはもっていないが、コメにしろ野菜、果樹にしろ、一味違うと首都圏の方々の一致したご意見である。私は、村の地形が山間地であるため、一日の寒暖の差が大きく当然ながら量はとれないのだが、もしかしてこのことが食味を良くしているのではとひそかに思っている。
 村には「出羽鶴酒造」という一軒の造り酒屋がある。操業を始めたのが慶応元年というから、現在ある地場産業では一番古い歴史をもっている。製造量も年間約八千石を誇る県内屈指の醸造会社である。当然のことながら、村の基幹産業である農業とは深いつながりを持って発展してきた。コメの消費、雇用のみならず、税金という点でも地域経済に大きく貢献している。

●●●酒蔵を地域振興の「核」として

 平成三年十一月、東京で「酒おこし・まちおこしシンポジウム」が開催された。東京都新宿区に事務局をおく酒蔵環境研究会の提唱により開催されたものであったが、出羽鶴酒造の伊藤社長から役場へも参加の呼びかけがあった。その白羽の矢は当時企画振興を担当していた私に当てられ、酒造りとまちおこしとどんな関係があるのか、半信半疑のまま村の酒小売店主の八嶋さんと共に参加してみた。
 シンポジウムの骨子の主なものは次のとおりであった。
●地域振興の「核」として酒蔵の活用(ハード、ソフト両面)により、地域の活性化に結びつける方法はないか。
●地元の酒米と水、酒蔵による「地米酒」づくりにより、地域農業の振興を図るため自治体が支援対策を講じ、その可能性を探れないか。
 これらの目的を達成するために、その具体的方法として「酒トラスト」活動や「酒祭り前線」の開催などの提案が行われた。「酒トラスト」は地元酒蔵を核として、日本酒愛好者から会費を募り、その会員だけの酒を造ってもらい、味わってみようとする、流通を確保して生産に結びつける一種の産直システムであるという。なるほど実に巧いことを考えるものであると思った。地元の造り酒屋は代々からその土地にあって、酒を飲む人がいる限り不滅の産業であるとしか考えていなかった自分には、全く思いも寄らぬ発想であった。幸いにも村には出羽鶴酒造という酒蔵があるだけに、私と八嶋さんは、酒蔵の協力を得て早速行動を開始することになった。

●●●「なんがいむら自然酒の会」の発足

 提案を受けた酒トラストが南外村でも可能かどうか、酒米生産農家、酒小売店、蔵元、JA、商工会、そして私たち行政の側も一堂に会し再三にわたる検討が加えられた。その結果、これといった魅力に乏しい地域ではあるが、酒ならうまくいくだろうという結論に達し、まずやってみたらどうかということになった。トラストの方法でいくとなると、その土地の香りや味といった個性が売り物となるため、日本酒の命であるコメと水には最初からかかわることにした。
●酒米は、県内で最も人気のある美山錦とし、有機栽培と低農薬のコメを使用する。
●仕込み水は、村の荒沢地区に露出している千五百年前に形成されたとされる貝化石層からの湧水を使う(検査待ち)。
●工法は伝統的山廃仕込みとする。
 コメの確保の依頼を受けたJAでは、有機栽培にかかわる農家を見つけてくれた。また、仕込み水も弱アルカリ性でカルシウムも多く、県内では珍しい硬水であり、山廃にはもってこいということであった。
 これらの結果を受け、募集口数はコメの生産量から限定八百口とし、会費は年一万二千円で山廃純米酒三升を配付。会費のうち千円は村おこし基金として積み立て、人材育成や各種のイベント、交流事業の開催を行うこととして募集を開始した。会費の主なターゲットは、村出身者で構成されている東京南外会や秋田市南外会、村と分収育林の契約をしている特別村民とし、ダイレクトメールで一斉に呼びかけた。マスコミでも紹介されたこともあり、北は北海道から南は大阪に至るまで、総勢二百六十九人という人気ぶりであった。故郷に思いを馳せる人、本物を飲んでみたい人、自慢にしたい人などさまざまな顔ぶれとなった。

●●●広がる交流のネットワーク

 平成五年三月二十七日は待望の初搾りの日となった。会員に呼びかけて搾りたてのトラスト酒を味わおうと、槽口(ふなくち)祭りを開催した。そしてこの機会を利用して、酒蔵環境研究会から世古一穂氏においでいただき「自然酒フォーラム」を開催した。日本酒と文化のかかわりや全国の事例などが紹介され、遠方の会員も大勢駆けつけてくれたこともあり、南外村の酒が注目を浴びることとなった。また、トラストの先進地である富山県福光町の「成政トラスト吟醸の会」との交流も生まれた。酒米の種子の交換や世話人同士の圃場の視察なども行われ、こうした思いもかけない広がりはいまではわれわれの貴重な財産となっている。
 今後に残された課題もあるが、酒蔵を取り巻く地域の仲間が全国に目を馳せ、ネットワークの輪を広げながら、今後の地域づくりに邁進したいと思っている。


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