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酒蔵を核としたまちづくり 地域活性化への新たなチャンス |
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参加のデザイン研究所代表 酒蔵環境研究会代表幹事 |
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世古一穂 |
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酒蔵は地域に密着した風土のシンボル。「酒蔵」を核にすえた住民、自治体、酒蔵のパートナーシップによるまちづくりを進めようと、一九九〇年に酒蔵環境研究会を発足して今年で七年目になる。会員はほんものの酒造りにこだわる中小の地酒の蔵元六十あまりと酒の専門家、酒販店、そして日本酒ファンの一般の人びと三百人あまりである。
研究会発足以来、全国の酒蔵とその酒蔵のある自治体、そして日本酒をこよなく愛する全国の日本酒ファンに「酒蔵を核としたまちづくり」を呼びかけ、独自の活動を展開してきた。具体的には、全国のネットワーク、酒蔵と地元自治体と飲み手の協働で実施する全国レベルの「酒まつり前線」の開催、地域振興の支援システムと連動した「お酒のトラストシステム」のモデル化、地元のコメ作り農家との連携による「地米酒」づくりの普及、酒蔵の景観や蔵そのものの空間を生かしたまちづくり、地元での蔵人の養成、酒づくりへの女性の積極的登用など、さまざまな角度から「酒おこし、まちおこし」の具体策を研究、提案、実践している。
筆者自身は地域・まちづくりを、住民の参加を基本にすえた真の参加・協働型のものにすることをライフワークとして、「市民・行政・企業のパートナーシップによるまちづくり」を企画、実践している。この「酒蔵を核としたまちづくり」も参加型まちづくりの一環として位置づけ、取り組んでいるものである。
本稿では酒蔵環境研究会で実践してきた「酒蔵を核にしたまちづくり」の考え方、実践手法などを紹介、提案したいと思う。
北は北海道から南は九州熊本まで、よいコメと水のあるところには、日本酒の酒造場、酒蔵がある。しかし、いま、日本酒は級別廃止、消費者指向の多様化、他の酒類との競合などによる需要低迷などで、非常に厳しい状況にある。地方の地酒メーカー、中小規模の酒蔵は、生き残れるか否かの状況である。
さて、地域での酒蔵とはどういう存在であったのだろうか。
地元および近在に「酒」を供給するだけの存在でなかったことはいうまでもない。昔から、新田開発や、治水工事に積極的に取り組んだり、美術品や書画、骨董の収集、歴史的価値のある屋敷や蔵の建設など、地域の経済的、精神的な中心的役割を担ってきたのである。ところが、明治、大正期には一万社を数えたわが国の清酒の酒造場も、その後は減少傾向にあり、現在では、二千五百社あまりに減少してしまっている。
昭和三十年代からの技術革新による装置産業化と大規模販売化するなかで大手企業の台頭と寡占化、五十年代からの需要低迷で、資本力のない中小規模酒造業の多くが廃業においこまれた。同時に、産業構造の転換によって酒造業の相対的地位がおち、地域での蔵元の役割も変化してきたのである。
ところが、最近消費者ニーズの多様化を背景に地酒ブームがおこり、地方の特定の小規模酒造場のなかで、ブランド化したところが全国販売のルートを広げ、地域アイデンティティの象徴的存在となってきている。しかし、一部の有名銘柄が「幻の酒」などといわれ、もてはやされる一方で、清酒の需要は停滞(マイナス二%の成長率)のなかで無名の小規模酒造場が次々と酒造りをやめていっているのが実状である。地方の名の売れていない地酒メーカー、地域の酒蔵の生き残りの道は険しい。酒蔵独自の努力、これまでのような地域の地場産業として生き残りの道をさぐるだけでは限界である。また、全国の自治体ではまちづくり、地域づくりの多様な試みが競って行われているが、地酒に関してはこれまで物産展などで自治体が地元の酒を売ろうとする取り組みはあったが、酒蔵を核とした本格的なまちづくりへの取り組みは行われてきていなかった。私は酒蔵を地域の歴史、文化の再生の「核」として位置づけ、まちづくりの視点から酒蔵を再評価することを提案してきた。
これからは酒造業界も、消費者だけに目をむけるのではなく、風土産業の担い手として地元自治体と連携して、より立体的、有機的な視点で、酒蔵を「核」としたまちづくりを考えていく時期にきている。その一方で、酒蔵のある自治体に対して酒造りをこれまでの産業政策のなかでの位置づけから、地域・まちづくり「核」としての位置づけに転換することが必要である。その実践的参加型まちづくりの方法が後述する「酒蔵トラスト」である。
「酒蔵トラスト」は酒蔵のある地元自治体にとっては酒造業や地元住民、全国の日本酒ファンと連携して地域活性化施策を展開できる新たなチャンス、新しいまちづくりの提案である。
●トラストの仕組み
酒蔵トラストシステムとは、具体的には、会員と蔵元、杜氏、蔵人とが協議をして酒質を設計し、これに一タンクをあてる。頒布方法や価格も協議で決定し、受け皿となる会の事務局を組織していく。単なる頒布会とは異なり、世話人がいる事務局の存在は、地域に開かれたまちづくりの組織となっていく。
○飲み手にとっては、自分たちだけの特別な「納得できる美味しいお酒」づくりに参加できる。
○酒蔵にとっては、資金や販路の心配をせずに、自慢のお酒や新しい酒づくりに挑戦できる。
○地元の地域にとっては酒蔵を核に地域活性化が図れる。新しい観光資源ができるだけでなく、地域住民のまちづくりへの参加のきっかけとなる。
この運動の原型は十年前に富山県福光町の成政酒造で「成政トラスト吟醸の会」として始まった。しかし、このシステムを単なる一蔵とトラスト会員のためのものとせず、これを地域づくりの一環として生かそうというのが「酒蔵環境研究会」が提案する酒蔵トラストの特徴である。お酒を造ることができる金額に、たとえば一割くらいの地域づくりやまちづくりの基金分を上乗せし、これを酒まつり前線や酒蔵を「核」とした地域のイベントや環境保全などにあてていこうというしくみである。
現在、酒蔵研究会では、こうした酒蔵を核としたトラストづくりを希望する蔵元や地域に対するアドバイス事業を実施中で、トラスト成功例も十あまりになった。
こうした全国での動きをうけて、昨年から全国酒蔵サミットが開催されるまでになってきている。全国酒蔵サミットの一回目は、酒トラストの始まりの地、富山県福光町で。二回目の今年は鳥取県智頭町で。三回目の来年は秋田県南外村で実施される予定となっている。
今年七月五日から七日に開催された鳥取県智頭町の第二回「全国酒蔵トラストサミット」には、全国から三百人以上の人びとが集まり、熱い盛り上がりをみせ、全国への広がりと確かな手応えを感じることができた。
●トラストのテーマづくりが大切
酒蔵環境研究会が提唱する酒蔵トラストは、酒蔵を核にどのような地域のテーマを掲げてトラストを組むかが大切な要素になる。現在、全国で酒トラストは一説には八十くらいできてきたといわれる。しかし地域づくりのテーマがはっきりしない、いわゆるPB(プライベート・ブランド)をトラストと称しているものも多い。もちろん日本酒好きの人びとが贔屓(ひいき)の蔵と一体になって自分たちだけの酒造りを楽しむことはそれはそれでよいのだが、それを酒蔵を核にしたまちづくりに発展させるしくみが酒蔵トラストなのである。地域ならではのテーマを入れて酒造りに参加することが地域づくりへの参加のきっかけになる仕組みとすること、地元の自治体との連携を生みだし、まちづくりへつなげていくことが大切である。
酒蔵トラストを始めるとき、酒蔵環境研究会では、まず主体となる蔵の取材から始める。実際に酒蔵のあるまちへでかけ、まちと蔵をていねいに視察、観察し、蔵元や杜氏さん、地元の行政の方々から話を聞き、そのなかからなにを酒蔵トラストのテーマにすべきかまず調査を行う。
お酒のトラストはたんにモノ(酒)のやりとりに終わるのではなく、お酒を媒介にして新しい関係、交流の場、まちづくり活動を生みだそうとするものである。
モノだけのやりとりの場合、そこには造り手と、飲み手、売り手と買い手という対立の関係がある。一方、トラストの場合は、酒造りから流通、納品、賞味まで、すべての段階の責任を蔵とトラストのメンバー(消費者)が共有する。このような連帯関係が成り立つためには、消費者がその酒蔵のお酒だけでなく、蔵のあるまちそのものに対して愛着をもち、人が交流することが前提となる。
たとえば、鳥取県智頭町の諏訪酒造の「杉の雫吟醸の会」の場合は、酒を仕込む水は地域の山がつくる。山が荒れてくれば良い水も確保できない。林業の不振で山仕事をする若い人が不足し、山の管理ができにくい状況のなかで、杉山を守り育てることをテーマにしたまちづくり基金を目指しており、地域内外の多くの市民の共感を得ている。
秋田県南外村の出羽鶴酒造の「南外村自然酒の会」は、地元の酒米づくりにこだわった地米酒づくりと、過疎の村の地域発信メディアとしての酒造りをテーマにした酒蔵トラストで、まちをあげて取り組んでいる。
この二例は地域で唯一の酒蔵であるため、地元の自治体も酒蔵を核としたまちづくりに取り組みやすかった事例でもある。同じ行政区に複数の蔵があり、そのなかでひとつの酒蔵だけと自治体が連携するのは難しいが、どうしたらよいだろうかという相談をよくうける。しかし、川をテーマに酒蔵トラストに取り組んでみることを考えると、仕込み水の源でもある川の恩恵を受けているのは流域全体の酒蔵であることに気づく。そこに着眼すれば同じ川の水の恩恵を受けている流域の自治体や「川の環境を守る」活動をしている市民グループとも連携できる。流域の酒蔵や自治体、流域の人びとが参加して酒蔵トラストを実践していくことも可能ではないだろうか。
酒蔵トラストのテーマは、実際に酒蔵と蔵のあるまちに行って、蔵の内外の状況を見、地元の人びとと膝を交えて語り合うなかから、その地域ならではのテーマがはっきりしてくる。また、はじめに酒蔵トラストのテーマをしっかりとすえたところは成功しているが、飲み会の延長で始めたところ、地域の人びとの参加が十分でなく、酒蔵主導や行政主導で始めたトラストは、必ずしもうまくいっていないのが現状だ。
酒蔵をめぐる自然および社会環境を広くとらえ、地域ならではの視点で水、コメ、作り手の確保、酒造りへの女性の活用、まちづくり基金づくりなどなど社会的な地域のテーマを設定し、酒蔵を核として地域づくり、酒蔵トラスト運動を広げていきたいと考えている。
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