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平成22年5月特集 若者の定住対策と結婚支援
日本青年館 結婚相談所 専門委員
少子化問題の一因として未婚化や晩婚化への関心が高まり、その対策として「婚活」という言葉とともに「出会い事業」「結婚支援事業」などが、全国各地で盛んに行われている。
結婚情報サービス産業といわれる結婚紹介ビジネスは、今や約四千社に増え、利用者数は六十万人以上と言われている。
全国の自治体も約五〇%の市町村が「結婚支援事業」を行っている、という結果がある(人口一万人未満の自治体は六六%が実施)。二〇〇三〜二〇〇四年の調査結果(財団法人・こども未来財団委託調査)によるもので、一九六〇年代の深刻な「農村の嫁不足」への対策が、今に続いている事業でもある。
この間、行政が「結婚」という、個人の選択に踏み込んだ事業への疑問視は常に伴ってきた。しかし、人口減が続く過疎の農山村には、その声を寄せ付けない危機感があり、「結婚支援事業」は強い「住民ニーズ」として実施されてきた。
現在、それは深刻な「少子化問題」と入れ替わったものの、地域社会の不安としては何ら変わらず、さらに支援事業の必要性は広がっている。
全国の自治体の「結婚支援」の事業内容は、調査から主に四つに分類される。
一つ目は「結婚相談員」の委嘱だ。かつての地域の仲人や世話焼きを期待した事業で、地域の熟年層を中心にボランティアで男女の個別の紹介相手探しが活動の中心になっている。
二つ目は「出会い事業の開催」である。各地で最も盛んに行われている事業で、パーティやスポーツ・レクリエーション、旅行など「レジャー型」が最も多い。次いで、それぞれの地域の特徴や地場産業を活かした「体験型交流会」で、比較的成婚率が高かった。
三つ目は「結婚祝い贈呈」。多いのは結婚祝い金や記念品の贈呈で、人口一万人未満の地域の約二八%が実施している。
四つ目は「結婚講座」である。消極的といわれる男性のための交際術やマナー、ファッションなどの講習会から、男女で「結婚観」などを語り合う学習講座なども行われている。
また、農山村に嫁いだアジアの外国人花嫁向けの支援事業(識字学習、交流会など)の実施も少数ながら含まれる。
こうしたさまざまな結婚支援事業は、市町村だけではなく、約二十八県の行政が少子化への対応として取り組み始めている。茨城県は直轄で会員制の「紹介事業」を実施している。青年団に事業委託した長崎県は、青年団が県内の企業や団体に「出会い事業の開催」を依頼し、未婚男女にメルマガで開催を通知する仕組みだ。
他県でも県内の団体から「出会い事業」を公募し、その団体の事業に助成する形態が多い。
二〇〇九年度には、政府が「結婚支援」をすることを補正予算で盛り込んだ。少子化対策の一環ではあるが、初の「婚活国家予算」だ。厚生労働省の「安心こども基金」の「地域子育て創生事業」五百億円に含まれる。
この予算について「社会的な異論や反論はない」と担当者は言う。国民意識の変化が「婚活」を認め出した結果と言える。
日本列島は今や、婚活「百花繚乱」。各地・各種団体が創意工夫をこらした結婚支援としての「出会いのイベント」を展開している。それは「出会いの機会がない」ことが未婚の大きな理由にならないほどである。
では、この事業の成果とは何か。究極の目的は当然「成婚」だが、行政が関わる事業では「結婚に結びついたケースはある」と答えつつも実数の把握はほとんどない。
出会いの機会提供、結婚の環境づくりが行政の役割で、あとは個人の問題でプライバシーへの介入はできないという考えからだ。それだけ目に見えた成婚数がないとも想像できる。
また、経済産業省が二〇〇六年に発表した「少子化時代の結婚関連産業の在り方に関する調査報告書」では、結婚情報産業における成婚率は八〜一〇%と推定している。産業と地域の結婚支援はその手法や対応の違いはあるが、費用対効果から見ればどちらも納得できる成婚率の報告はほとんどない。
ただ、成婚率は「婚活」参加人数という分母が多くなれば、その実数は高くなるわけでけっして無駄、少ないという評価はできない。
とはいえ、成婚だけを期待する「結婚支援事業」では、かかる労力や費用対効果からみれば、損失が大きいことは明々白々である。長年のそんな悩みから脱出し、「成果」をもっと別な視点、あるいは副産物への期待へと見直してみてはどうであろうか。
未婚化が進む社会を問い、結婚観の変化を受け止め、地域社会の新たな生き方の模索も「結婚支援」の枠組みで考える時代とも言えるだろう。
結婚相談所に三十年間かかわり、全国各地の事業を追い、若者や地域の関係者、結婚相談員の話を聞き取った経験から、次の三つの視点を提案したい。
第一は「地域活性化」の視点である。
宮崎県西米良村は人口千三百人ほどの小さな村だ。町村合併を避け、自立型の生き残りを選択し「ワーキング・ホリデー」「単身者向け村営住宅の提供」「青年団育成」などの地域活性化を展開している。その結果として、元気な若者が育ち、先の二〇〇四年の調査では、日本で最も高い成婚数を上げていた。
長野県のJA松本ハイランドは、一年間の農業体験を女性に呼びかけての「出会い事業」を行っている。女性たちは企画のおもしろさに自費で参加。しかも、県外からの参加がほとんどで、年間十二回も松本に通い続けるのだ。
主催者には「農業アッピール」「食育」の狙いがあった。地元住民とのふれあいの機会も設けるなど、年間の継続事業だ。結果として、四年間で十三組が成婚。これらの新婚夫婦から八人の子どもが誕生しているという。
それでも担当者は「女性は農業を敬遠しているのではないか、と思い込んでいた独身農業後継者(男性)が、喜んで参加する女性の姿に農業者として自信がついたのが何よりの成果」と語る。
また、高齢化率四六%だった福島県昭和村は十五年ほど前から、村の存亡をかけて「からむし織り」の後継者づくりに村外から女性を招いた。全国から志願した女性たちは一年間村に住み込み、「からむし織り」を学ぶ。
その結果、女性たちと村の青年との結婚やIターンで若い女性の定住につながった。さらに女性たちのアイデアで「からむし織り」はさまざまな生活用品に生まれ変わり、特産品としても開発が続けられている。女性によって生き延びた村といえるだろう。
つまり、目的を成婚だけに絞るのではなく、地域全体の課題や他の事業との連帯から、新たな成果や効果を生み出す仕組みが必要なのではないだろうか。農村のグリーン・ツーリズム、スローフードや世代間交流、観光産業などを生かすことで、「結婚支援事業」は新たな発見、新たな学び、複数の成果につながる事業としてとらえることができる。
また、地元の施設を活用したイベントも、地域の施設利用と若者の学びの場として活用できる。
例えば、石川県「子育て支援財団」が男女の出会い会場を「県立美術館」とした。日ごろ、絵画や美術品を鑑賞する機会の少ない若者を呼び込み、学芸員に美術を学び、若者の視野や話題を広げる役割につなげた。
その事業を、今度は長崎県の若者がヒントにして、長崎県立博物館で「ナイト・ミュージアム」という出会い事業につなげた。閉館後、学芸員を伴い、暗闇を懐中電気で鑑賞するというのだ。
若者の発想が、ミステリアス・ときめき演出効果を生み、未婚男女でなくても参加してみたい気分になる。ほかにも、利用頻度の少ない施設の活用や学習を兼ねた出会い事業は、成婚以外にも有効な事業としての成果ととらえることができるだろう。
第二の視点は、若者の雇用事情からどんなライフステージを示唆できるかということだ。
未婚化の要因として「雇用問題」は大きいうえ、個人で解決できない問題でもある。働く人の三人に一人が非正規雇用で、四人に一人が年収二百万円以下と聞く。
二〇〇七〜二〇〇八年に研究者とともに、若者への聞き取り調査を行ったが、東北・九州の農村地域や小都市での三十代前後の未婚者の年収は三百万円前後だった。求人倍率も極端に低いところもある。仕事に安定、生きがい、社会的意義を求め、その志が高いほど雇用機会は狭められ、若者が希望をもてない社会が広がっていく。
「安定した雇用条件で好きな仕事ができれば、少しぐらい給料が安くてもしかたない」という若者の思いは地域社会に届かない現実がある。収入の低い男性は「妻子を養えない」「女性は低収入の男性を選ばない」と結婚へのあきらめ感を持ち、女性に共働きを期待しつつも「養うのは男の責任」という意識が、より男性の自信を喪失させている。
女性も「仕事がないから専業主婦」という選択肢は、農村地域などでは少数派だ。周辺の男性の収入がわかるだけに、女性もまた、経済的自立の先にしか、結婚は見えてこないという。
それでも、「結婚して二人でがんばれば暮らせる!」と励ますなら、「共働きできる環境」の整備・提供が急がれる。低所得者世帯への住宅提供や保育所の待機児童の解消なども重要な「結婚支援」である。
そして、第三に検討する視点は、婚姻に関する習慣・慣習や婚姻に関する法制度の見直しだ。その根幹は「多様な結婚の形」を受け入れることであり、「結婚しにくい社会」のハードルを下げることでもある。
夫婦の家事分担や夫の育児役割もそうであるが、例えば、「選択的夫婦別姓」など多様な個人の生き方を保障する仕組みを作り上げることなど、さまざまな事情をこえて結婚しやすい社会をめざすことが急がれる。
すでに夫婦の形を変えて結婚を優先するカップルも生まれている。都会で働く女性と農業青年が互いの仕事を守る「週末夫婦」。農家の跡取り同士だからこそ、それぞれの家を守るために行う「事実婚」。親からの自立のために夫婦での「通勤農業共働き」…。自分たちの都合や生き方を調整してのカップルライフ≠ニいう挑戦はもはや、珍しくはない。
「結婚できにくい条件」を抱えた人たちが増加する社会である。そこを見据えて、その条件を乗り越えるための社会支援は、「地域社会」にかかわる人たちにこそできる「結婚支援」ではないだろうか。「結婚」そのものは自己決定権の中にあり、周囲ががんばるほどに危うさを抱える事業なのである。それだからこそ、社会的課題の視点は重要である。