地域づくり団体探訪 歌声列車の会

兵庫県加古川市

ローカル線に地域づくりの夢を乗せ
―JR加古川線沿線で住民が相互交流―

編集委員

齋藤 誠

兵庫県は、県民主役・地域主導のもと、二十一世紀初頭のめざすべき社会像とその実現方向を明らかにした「二十一世紀兵庫長期ビジョン」を策定した。このビジョンは、全県的な視点で取り組む「全県ビジョン」と、歴史、風土、文化などを共有する圏域ごとに、住民自らが地域の望ましい将来像を描き、その実現に向け主体的に取り組む「地域ビジョン」により構成されている。

今回訪ねた「歌声列車の会」は、「光り輝かそうJR加古川線沿線活性化を図る会」の略称。会員の一部は、東播磨地域ビジョン委員会の委員にも名を連ね、歌声列車の会の取り組みが、地域ビジョン重点行動プランの一つとして位置付けられている。

JR加古川線沿線地域の活性化と沿線住民の皆さんの相互交流を目的に運行を始めた歌声列車=Bその運行を通して、地域づくりに取り組む「歌声列車の会」の皆さんに話をうかがった。

歌声列車 出発進行!

JR加古川線は、兵庫県を南北に、加古川駅から丹波市の谷川駅までを結ぶ、全長約五十キロメートルのローカル線である。平成七年の阪神・淡路大震災により周辺路線が寸断された際、迂回路線の一つとして活用された経緯などから機能強化を求める声が高まり、平成十六年十二月、全線電化が実現した。

しかし、沿線市町に知名度の高い観光地などが少ないことや、運転される列車の本数も多くないことから、沿線住民の皆さんが通勤・通学のために利用するケースがほとんどだった。

平成十七年四月、JR加古川線の乗降客数が年々減少傾向にある中、「電車にちなんだイベントを通して利用促進と沿線地域の活性化を図りたい」との思いを、当時の会員がJR西日本へ足繁く通い訴えた。当初、JR西日本側は、沿線住民の皆さんとのタイアップによる企画列車の運行に慎重であったが、会員らの熱意に動かされ協力体制をとってくれるようになったという。

平成十七年十二月十八日、JR加古川線電化からちょうど一年。

歌声列車の一番列車≠ェ加古川駅のホームを出発していった。昭和三十年代、全国的に流行した歌声喫茶を現代風にアレンジ。貸切電車内に、五人編成(テナーサックス、アルトサックス、キーボード、ドラム、ベース)のバンドを乗せ、生演奏に合わせて懐メロや童謡、唱歌などをみんなで熱唱した。

「第一回目は、まさに見切り発車。とにかく、電車の中で歌って楽しみましょうという思いが強かった」と、会員のひとりが懐かしそうに振り返る。ただ、一回目の実施後、参加者から「次回の運行はいつ?」「共催イベントをもっと増やしてほしい!」など、大きな反響があった。

同時に、新聞やテレビといったマスメディアでも大きく取り上げられるなど、「JR加古川線の利用促進を図り、沿線地域の活性化につなげたい」という目的で始めた歌声列車への関心は、予想以上に高いものがあったという。

みんなの力が推進力に!

平成十八年からは、年二回の定期運行を開始した歌声列車。

当初は、東播磨地域ビジョン委員会の委員やそのOBらが中心になって「歌声列車の会」をたちあげたものの、運行を重ねるうちに、「ぜひ入会して、地域活性化のお手伝いをしたい!」と、沿線住民の皆さんの入会が増えてきた。

また最近では、歌声列車乗車中に声をかけられることもしばしばあるとのこと。これまでの地道な取り組みが実を結びつつある一つの成果と言えよう。会員数は少しずつ増え、現在二十八人。

「毎回、趣向を凝らした電車を走らせるためには、多くの沿線住民の皆さんのアイディアが必要! もっと会員数を増やしたい!」と、会員の歌声列車にかける情熱は、ますます拍車がかかりヒートアップする一方である。

昨年十二月には、会員の悲願でもあった、歌声列車の「ヘッドマーク」が完成した。デザインを考案したのは、「歌声列車の会」の取り組みを支援する東播磨地域ビジョン委員のひとり。JR西日本の製作・協力により、第七回目の運行から、電車の前後に掲出している。

また、JR加古川線沿線にある西脇市出身の美術家、横尾 忠則氏デザインによるラッピング電車が平成十六年の電化時から順次運行。JR加古川線へ沿線住民の皆さんの興味をひきつけるユニークな企画として、歌声列車運行を後押ししてくれている。

山越え、谷越え

順調に運行を続ける「歌声列車の会」にも山や谷がある。

今年六月に実施した第八回目の参加者募集の際には、応募者がついに四百三十人を超え、競争率は五倍近くにもなった。「できるだけ新規の応募者に乗車してもらいたいという方針から、参加者の抽選には毎回、頭を抱えている」と、会員のひとりは悩みを打ち明ける。

以前、運行車両を二両から三両に増やすことも考えたものの、「歌声列車の会」の運営能力と停車するホームの構造的な問題などにより、現在のところ断念しているとのこと。

また、運行列車の準備にあたり、スピーカーやキーボード、ドラムといった機材運搬・設置に大変苦慮しているという。女性スタッフが多く力不足は否めないものの、口を大きく開けて楽しそうに歌う参加者の顔を思い浮かべながら、協力して作業を行っている。

列車運行による新たな動きも

今年の十二月には、第九回目の運行を控えている「歌声列車の会」。

近年では、継続した取り組みがきっかけとなって、JR加古川線の利用促進と沿線地域の活性化という目的とともに、東播磨地域と北播磨・丹波地域の皆さんとの相互交流も進み始めている。中でも、二カ月に一回、JR沿線の活性化等について考える三地域合同協議会の発足は、その好例といえる。

さらに、JR加古川線のほぼ中間、北播磨地域の西脇市駅において、沿線住民の皆さんが、歌声列車の停車時間(歌声列車運行時のみ行き帰り合わせ約二時間)を利用した写真や絵画、陶芸品の展示、地場野菜の販売等を行い、参加者との交流を深めている。まさに、「歌声列車の会」の取り組みが沿線住民の皆さんに受け入れられ、新たなレールが敷かれた何よりの証である。

「歌声列車の会」の取り組みは、今後とも各駅停車しながらゆっくりと、しかし着実に進んでいくことだろう。急ぐ必要はない。列車は沿線地域の活性化という終着駅に向かって、歌声を響かせながら走り続けてゆく。

★団体プロフィール★ 
設立年 平成17年4月
設立・運営主体 任意団体
代表者 三村 修
会員数 28人
<連絡先> 〒675-8566
兵庫県加古川市加古川町寺家町
天神木97−1
兵庫県加古川総合庁舎内
ビジョン室
(電話・FAX)079-421-2289