平成21年10月特集 住民拠出の協働型まちづくり

柳谷町内会(鹿児島県鹿屋市)

イモ栽培などの収益金で
福祉・人づくりの公益事業
―住民総出の知恵と汗のむらづくり―

会長

豊重哲郎

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「一年輪番制の自治公民館長では何もできない」―地域活性化必要の危機感を持った平成八年三月、「十年早いけどお願い」と総会で推されて自治公民館長に就任、行政に頼らない「感動のむらおこし」に取り組んで十三年が経過した。行政に頼らないとは、集落の課題は集落民自からが知恵を出し、汗を流し、円満な輪の中にコミュニケーションの和が芽ばえる「結」(ゆい)の力の再生にあった。

半径百メートル住民の声かけ運動

過疎で笑いと希望が消え、その地域再生を託された時に心に決めたことがある。それは、集落民三百人の一人ひとりはレギュラーである。「やねだん(柳谷町内会の通称)には補欠はいない」と。幼児から高齢者まで、才能や出番を引き出し、地域活動に参加してもらうための土台づくりの二年間を、人づくりの感動と感謝のムードづくりに没頭した。

世の中にはいろんな人がいる。特に地域活動では、そっぽを向いている人、もともと「豊重が嫌い」という人もいたはずである。地域活動で一番難しいのは、「人集め」である。むらおこしは絶対に犠牲者を出してはいけないし、できる人たちだけでやっては長続きもしない。人づくりの基本は半経百メートルの住民のフルネームと顔を覚え、笑顔の「快話」が最優先である。

「他人の子供のために泣くことができるか」、そして見守ってくれて「ありがとう」―。地域崩壊の防止活動に顔と名前を覚えるため、「おはよう声かけ運動」を始めたのである。集落民は、声をかけるだけでなく、真剣な気持ちを伝えたくておはようのうちわ≠持参して呼びかける。その姿は、やねだんの早朝の風物詩でもある。子供や孫はいないけど、参加する高齢者たちもエネルギーをもらい、エール交換の場でもある。

「人を動かすコツ」―それは感動しかない。感動づくりの一つに母の日、父の日、敬老の日のメッセージ放送を始めた。東京などに住んでいる「やねだん」出身者に、父母などへの感謝メッセージを全戸に有線放送で流し始め、十四年目に入った。

初年度の父の日、「すぐ手の出るお父さんでしたね」「家出をすると、私の写真を持って警察に走りましたね」「厳しさ、我慢強さ、そして思いやりを教えてくれましたね」…ありがとう。父に送るこのメッセージ放送で、活動に背を向けていたこの頑固おやじは、感謝の涙で私に抱き付き、「娘に憎まれていると思っていた。ありがとう」。

子供の気持ちがこの年になって初めて分かったと、いつの間にか私の強烈な支持者になっていた。日ごろ言えない親への感謝、故郷を後にした親への気遣い。スピーカーから聞こえる高校生たちの朗読は、集落を感動の涙に包み込んでいる。

住民総出の収益事業による自主財源の確保

自主財源確保のために三年目から収益事業をスタート。遊休地を活用した集落民総出のサツマイモ栽培、「焼酎やねだん」のPB(プライベートブランド)商品開発、家畜のふん尿悪臭防止に土着菌(好気性微生物)製造と販売、ソバ屋「未来館」など、生産販売や施設整備などはすべて集落民のボランティアと資金拠出である。

収益事業はあくまでも手段。住民の福祉や人づくりなど公益事業が本来の目的である。地域活動は、いずれは自分のことだよと、集落民が意識を改める。自主参加のやねだんには、命令形は似合わない。

集落民の汗で稼いだ自主財源は、高齢者宅の孤独死対策として緊急警報装置を整備(十八個所)、足腰の弱い人たちにシルバーカート(十九台)を貸与、小中学生の基礎学力徹底チェックの「寺子屋」の開講(平成二十一年)に使用した。

ボーナスの全世帯支給と移住者の増加

地域再生に取り組んで十年目の平成十八年、自主財源の余剰金が約五百万円に達し、全世帯に一万円のボーナスを支給。この間、他界された十八人にも支給した。

その前年には町内会費一戸当り年間七千円を四千円に減額、その後も毎年繰越金は四百万円余、みなし法人として、もちろん納税もしている。高齢になっていくと、ボランティアには体力的にも限界があるため、営農だけよりも商品開発が必要となる。

地域活性化の永遠のテーマは「文化向上」である。文化を語る地域には必ず人が集う。そして、キーワードは「子供」である。本物の芸術家を招へいし、空き家を迎賓館と名付けて三年目、七人の芸術家(陶芸家、写真家、水彩画家、油彩画家、ブロンズ像彫刻家、ガラス工芸師)が移住。迎賓館七号館のほかに、スーパー跡をギャラリーに、牛小屋はブロンズ像の美術館に、精米所は陶芸創作場に活用中だ。

このまま過疎が進めば、平成三十六年の高齢者率は約五〇%に達すると予想した人口推移表が活動歴史館に掲示してあるが、集落の人口が平成十九年に三百一人、同二十年は三百十四人に増加、二年間で三十一人も増え、高齢者率は三三%に下がり、人口推移表を修正するなど、うれしい悲鳴である。

奉仕から生まれる感動を学ぶ故郷創世塾

明日の地域リーダー養成を全国に広げようと、「やねだん故郷創世塾」の取り組みを始めて五回を数える。三泊四日の日程で五月と十一月に開講。北海道、三重、熊本、福岡の各県からの卒塾生は七十人に上り、日本全国で大活躍中である。

地域づくりには良きリーダーが不可欠である。ポリシーを持ち、情熱のあるリーダーには必ず人が付いてくる。文章力、思考力、創造力、取材力、プレゼン力を養い、奉仕の精進から生まれる本物の感動とは何かも学ぶ創世塾である。

築百二十年の古民家を改修後、この秋に就農希望するIターン者の迎賓館八号館は寄宿舎として活用、農業研修生五人前後の募集を行う。やねだんの土着菌を活用した「土づくり」などの基本や、鹿屋地区の農家から実践的農業経営を学ぶ。新たな農業モデルの発信元を念じて…。

著書 地域再生〜行政に頼らないむらおこし

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