地域再生実践塾 第二回

静岡県富士市

「起業支援が導く地域再生」
起業支援する側に必要なマインドとスキルを実践形式で養成

(株)イドム代表取締役

小出宗昭

 地域再生の優良事例地において、地域に密着した活動経験豊富な講師などの指導の下、レクチャーやフィールドワーク、グループワークなどを行い、実践的手法の習得支援により、地域再生を担う人材を育成する地域再生実践塾。
 第ニ回は、「起業支援」をテーマに七月十四日から十六日まで静岡県富士市で開催。「SOHOしずおか」で二百以上の新規事業を支援した小出宗昭氏を主任講師に招き、「起業支援が導く地域再生」について、五十四人が学んだ。

 

今回、私は地域再生実践塾の第二回のテーマ「起業支援」の主任講師の依頼を受け、「起業支援が導く地域再生」のタイトルで三日間の講座全体をコーディネートした。起業支援による地域活性化およびそれを担う人材に必要なマインドとスキルの養成が目的で、同塾としては初の試みである。以下、本講座開催の意義および同講座における取り組み内容とその成果について述べる。

地域再生を導く起業・産業支援

私は過去八年の間に、静岡市と浜松市に新設された計三カ所の起業・産業支援を行う公的施設の立ち上げと運営にかかわってきた。その活動の中で私が施設運営の柱として位置付けてきたのが、「起業支援・産業支援機関を核とした地域再生」である。起業・産業支援を目的とする公的支援機関が効果的な支援を行うことにより、起業家や新しいビジネスモデル・新商品開発に取り組む中小企業が増加する。そうした動きが地域全体に広がることで、地域全体のモチベーションが高まり、チャレンジ精神旺盛な人材輩出のさらなる増加につながるなど、地域を刺激し、活性化することが可能と考えてきたためである。

この考えは、国内における公的起業・産業支援機関の活動においては、今のところ期待された成果を上げられていないという課題に対する答えを模索する中から生まれたものである。そして、その考えを実践する上では支援する側の「ひと」の能力向上が必要不可欠である。国の関係機関においても、制度・ハード面において様々な企画や実践を試みてきたにもかかわらず、全国各地で展開する公的起業・産業支援における活動が本来あるべき水準にまで達していない現状をかんがみて、特に起業・産業支援を担う人材の育成が急務であるという声をよく伺う。私が、依頼を受けた講座のタイトルとして「起業支援が導く地域再生」を選んだのは、こうした理由からである。

官民一体となった産業支援センターの開設・運営

ここで開催地となった富士市について、少々説明したい。原油高や米国景気の悪化など日本経済を取り巻く環境が厳しさを増している中、同市にあっても、産業の活動状況を図るバロメーターである製造品出荷額などが低迷している。静岡県内の市町村合併による他市の規模拡大の影響を大きく受けているとはいえ、平成十七年には県下六位まで後退した。市の主要産業である製紙産業が、需要の足踏みや原燃料高で厳しい経営環境下にあり、工業都市としての競争力の低下を懸念しなければならない状況である。

そのような中、同市は産業界と行政、市民などが一体となった経済活性化への取り組みに積極的に着手した。市商工農林部工業振興課は今夏、工業、商業、サービス業、農林水産業なども含む産業全般を支援の対象に、「人」による個別支援を目指す産業支援施設「富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)」を開設した。人口二十四万人の中規模都市が産業支援センターをつくったのは県内初で、運営を民間に委託したことも極めて珍しく、官民一体となり本気でまちおこしをしようとするプロジェクトである。

三日間のカリキュラムと講義内容

富士市という地方都市での地域再生実践塾の開催は、参加者募集の面で応募者が所定の募集人数に達するか懸念したが、募集開始直後定員四十人に対し、最終的には五十四人に上る参加者が集まった。受講生の属性も多様で、出身地は北海道から南は沖縄県まで、年齢層も二十〜六十代の幅広い世代から、熱心な起業・産業支援による地域再生の担い手が富士市に集合した。三日間にわたる本講座のカリキュラムは次の通りである。

1日目

冒頭では、「起業家育成にかかる問題提起〜支援側に求められる資質とは」というテーマの下、先にも述べた公的機関における起業・産業支援の実情について解説すると同時に、問題提起を行い、支援施設やその担い手の本来あるべき姿を浮き彫りにするなど、本講座全体を貫く考えなどの総論部分と問題提起について私が講義をした。

続いて、岐阜市において起業家精神を持つ人材の育成による地域活性化に取り組んでいる「NPO法人G-net」の秋元代表と高嶋氏が登場し、彼らの事業についてプレゼンテーションした。バイタリティあふれるこの二講師には、三日間の講座全体を通してワークショップのファシリテーターとしても活躍していただいた。

初日最後の講師には、ジャーナリストの三神万里子氏を招いた。三神氏は、国内外のメディアにおいて、人事や組織、会計、金融、新産業、市場創出などに関して、産業分野や組織規模にとらわれない非常に幅広い領域において精力的な取材および執筆活動を行っている。日本はもちろん、世界経済の動きを踏まえた上で、今地域に求められている半歩先を行く活動の展開を分かりやすく示していただいた。

2日目

前半の講義では、支援者としての問題発見能力を養うワークショップをメインテーマとした。全国的に活躍しているパワフルな女性起業家たちによるプレゼンテーションに続き、現在、彼女たちが実際に抱えている課題が提示された。この課題に対して、受講者はその場で具体的な対応策を考え、直接、起業家本人にそれを提案する講義とグループワークを組み合わせた展開である。

講師の一人は、私が平成十三年からサポートしている北極しろくま堂(有)の園田正世代表である。同社は赤ちゃん用だっこ紐「スリング」のトップメーカーであり、園田氏は同十七年に全国商工会議所女性会連合会主催の「全国女性起業家大賞」を受賞した全国的に著名な女性起業家の一人である。そしてもう一人は、(株)しょくスポーツのこばたてるみ代表である。こばた氏と私が一緒に手掛けた日本初のスポーツ栄養学を取り入れた弁当商品「スポーツ弁当」は、同十五年開催の静岡国体会場において大ヒットし、同年の「静岡県ニュービジネス大賞」を受賞した。

この日の締めくくりは、私が立ち上げと運営に携わった公的起業・産業支援施設において実践していた「人が集まるための仕掛けづくり」について解説を行った後、もし受講生が当時の私だったとしたらどのような対応をすべきかについてグループごとに議論し、その結果を発表するというワークショップを行った。

3日目

最終日は地元で活躍している起業家や経営者など七人に相談者役として参加していただき、受講者が三日間に学んだことを活かして相談を受ける”実践訓練“の場とした。支援施設の相談窓口で実際に発生することが考えられる具体的な相談の場面を設定し、受講生が実際に体験することで、支援者としてどのように対応したらよいかを身を持って感じ、考えるきっかけとすることを狙いとした。本番さながらのワークショップから、受講者が今後の業務に活かすことができる確かな気付きがあったのではないか。

支援者に求められる三つの資質

私は、これまでの経験から起業・産業支援において、高い成果を生むために支援者に求められる資質には、次の三つの要素があると考えている。それは「高いコミュニケーション能力」と「優れたビジネスセンス」「絶えることのない情熱」である。例えば、売り上げ不振を理由に販路を紹介してほしいという相談があった場合、販売先を紹介するのは誰でも考え付く対応である。しかし、その効果は一時的であり、対応は決して根本的な解決にはならない。そうした相談においては、まず販売不振の本当の理由を相談者と同じ目線で一緒になって考え、問題の本質を的確に把握することが重要であり、さらにその過程で相談者自身も気付いていない企業やその商品の「真のセールスポイント」を見つけ出すことがより重要である。

今回の地域再生実践塾は、実際の事例を起業家や経営者本人に解説していただき、その場で本人を巻き込んでワークショップを行うという独特のスタイルで構成した。ワークショップ中はもとより、交流会においても活発に意見交換をする受講生の姿を見ても、それぞれが大きく刺激され、地域に根差した自己の活動の展開について改めて考え直すきっかけとなったことが伺われた。本講座からはもとより、今後国などを中心に企画される産業支援人材育成の取り組みの中から熱意ある支援者が数多く輩出され、地域再生の大きな原動力となっていくことを期待したい。