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水道の蛇口から出てきた水をそのまま飲める国は、実は世界では珍しい存在だ。日本は良質な水道水に恵まれているわけだが、いま東京都水道局は、さらに「安全で、おいしい水道水」の供給を目指している。そういえば、昔から人里は旨い水のあるところに発展してきた。
基準クリアしても不満は消えず
一九七〇年代前半から、利根川・荒川水系の水質汚濁が進み、これを原水とする東京都の水道水質が悪化したことから、かび臭などの苦情が増加した。特に七八、七九年には水質基準を満たしているにもかかわらず、かび臭いという苦情が千件近くにも達し、水道水はかび臭いというマイナスイメージが定着した。
これに対して当局は、河川の水質保全を国に要請するとともに、粉末活性炭の注入や高度浄水処理の導入など、水質を改善する取り組みに努めてきた。このため、現在では夏場でもカビ臭に対する苦情はほとんどなくなっており、おいしさの点でも改善されてきている。
しかし、二〇〇三年度に当局で実施した「お客さま満足度調査」では、飲み水としての水道水に不満を持っているお客さまの割合は半数を超え、いまだに東京の水道水のイメージは回復していないことが分かった。
このような結果となった要因として、水道水に対するお客さまのニーズがさらに高度化したことと、東京の水道水の現状や当局の取り組みが正しく伝わっていなかったことが考えられた。
04年からプロジェクト推進
一旦定着したマイナスイメージを払拭するのは容易でない。東京都水道局は〇四年六月、局の総力を挙げた取り組みとして、「安全でおいしい水プロジェクト」を立ち上げた。
このプロジェクトは、高度化するニーズに的確に応え、より安全でおいしい水を供給するとともに、水道局の事業活動全般に対する理解を深めてもらうことを主眼としている。
こうした取り組みにより、水道水に対する不満や不安を解消し、一人でも多くのお客さまに安心して蛇口から飲んでいただくことを目指し、プロジェクトを推進している。
プロジェクトは、〇四年十一月に策定した「安全でおいしい水プロジェクト推進計画」に基づき三カ年にわたり、様々な施策を実施した。さらに今年一月、これまでの取り組みを一層レベルアップした「蛇口回帰推進計画」を新たに策定した。
「蛇口回帰推進計画」は、「安全でおいしい水をつくり、届ける」と「お客さまの視点に立ったPRを行う」の二つの体系により各施策を推進していくこととしている。以下、計画の概要を説明する。
東京の水道水は、安全性やおいしさに関して国が定めた水質基準を高いレベルでクリアしているが、おいしさに関して、さらに高いレベルの東京都独自の「おいしさに関する水質目標」を設定した(表参照)。
この目標では、残留塩素などにおいや味の原因となる物質と、外観について八項目の目標値を設定し、一三年度までの目標達成を目指している。
このうち、トリクロラミンは、国の水質基準などでも定められていなかった「カルキ臭」の原因物質として、当局が独自に研究を進め、指標として定めた。
八項目中の六項目については既に〇五年度末で目標をほぼ達成している。残り二項目の目標達成率も約六割となっている。
高度浄水から蛇口までの対策
おいしさに関する水質目標を達成するため、水源から蛇口に至るまでの総合的な施策に取り組んでいる。主な取り組みは次の通りだ。
【高度浄水処理の導入促進】
東京の水道水の原水の約七割を占めている利根川水系は、多摩川水系などに比べて原水の水質汚濁が進んでいる。かつ急速な水質改善が望めない状況にある。
こうした中、安定的・効果的にカビ臭などを除去していくため、これまでの浄水処理過程に新たにオゾン処理と生物活性炭吸着処理を組み込んだ高度浄水処理を導入している(図1参照)。
高度浄水処理は、オゾンの強力な酸化力と活性炭の吸着作用、活性炭に繁殖した微生物の分解作用により、カビ臭原因物質やトリハロメタンのもととなる有機物質の分解、カルキ臭発生の原因となるアンモニア態窒素などの除去に大きな効果があり、安全性とおいしさを同時に実現できる処理方法だ。
九二年以降、金町、三郷、朝霞の各浄水場に導入しており、一三年度までに利根川水系の全浄水場に順次導入を図ることとしている。
【経年管の取り替え】
水道水の品質が蛇口に届くまでに劣化しないよう、水を送る管路の管理と整備を進めている。
老朽化した管の破損による漏水事故、濁り水、赤水の発生などを未然に防止するため、耐震性が低く古くなった水道管(経年管)の更新を積極的に進めている。特に口径400ミリ以上の水道管を対象にした取り組みを「K0(ケイゼロ)プロジェクト」として計画的に推進しており、一一年度末までには、すべての経年管を取り替える予定となっている。
〇五年度末現在、経年管の解消率は九五%となっている。
【貯水槽水道対策の推進】
都内の給水方式の四割は貯水槽水道が占める。この方式は、水道水が貯水槽内に長時間滞留するなど適正に管理されていないと水質が劣化する恐れがある。
安心して水道水を飲めるようにするためには、貯水槽水道の設置者による適正な管理が不可欠であり「クリーンアップ! 貯水槽」という取り組みを開始した(図2参照)。これは、都内に設置されている約二十二万件の貯水槽水道を点検調査して、その結果に基づき貯水槽水道管理者に対して指導・助言する。〇八年度までの五年計画だが、〇五年度末現在、約七万件の点検調査を完了している。
こうした貯水槽水道の適正管理に向けた対策に加え、貯水槽を経由しない給水方式である直結給水方式への切替えも促進している。
さらに〇七年度からは、子ども達の水道水離れを食い止めるため、公立小学校四百校を対象に、水飲栓の直結給水化を進めることとしている。
食品加工の衛生管理を導入
水道局では、水道水の安全性に対する信頼を一層向上させるため、万全な水質検査体制を整備しているが、今後、一層の安全性を確保するため、食品加工の衛生管理手法であるHACCPの考え方を取り入れた「水安全計画」を策定し、運用していくこととしている。
また、カルキ臭のないおいしい水を提供するため、残留塩素を低減する取り組みを進めている。
いままで述べたような安全でおいしい水をつくり、届ける取り組みだけでなく、お客さまが飲み水としての安全性を正しく理解できるような適切な情報提供も重要だ。このため、お客さまの視点に立ち、水道水の安全性やおいしさを広く伝えるキャンペーンを積極的に展開している。
[1] 様々な広報媒体を使ったアピール
ポスター、リーフレットなどを作成するとともにプロジェクトの取り組みを分かりやすく知らせる専用ウェブサイトを開設し運営している。またテレビ・ラジオなどマスメディアによる取材などにも積極的に協力している。
[2] イベントの開催
水道水の安全性やおいしさを実感し納得してもらう機会を提供するため、営業所などでの地域に密着したイベントでは、水の味くらべ、水道なんでも相談などを実施している。
今後は、これに加えて、安全でおいしい水をつくる施策の展開に合わせて、効果的なイベントを実施していくこととしている。
PRツールとしては、高度浄水処理水をペットボトルに入れた「東京水」を活用している。
[3] その他の取り組み
「クリーンアップ! 貯水槽」や、公立小学校の水飲栓を直結化する事業の推進に合わせて、効果的なPRを行っていく方針だ。
小学生の水道に対する理解を深めるためには、キャラバン隊を編成して小学校を巡回し、四年生を対象に劇などを取り入れた分かりやすく親しみやすい広報を実施する。
ペットボトル「東京水」の活用
プロジェクト推進に当たり、最も象徴的な役割を果たしているのが、高度浄水処理水をボトル(五百ミリリットル)に詰めたペットボトル「東京水」だ。
〇四年七月から製造を開始し、イベントや施設見学会などで無料配布していたが、予想以上に好評だったことから、同年十一月から都庁舎内売店での販売(一本百円)を開始した。
それまでは、水道水をペットボトルに詰める自治体は、ほとんどなかったため、製造や販売では試行錯誤が続いた。
しかし、実際に飲んだお客さまから「ミネラルウォーターに比べて遜色がない」と好評を得ているほか、新聞・テレビなど多くのメディアで取り上げられるなど、プロジェクトの旗艦的役割を果たしている。今後は、首都東京の魅力を世界に向けてアピールするツールとしても、積極的な活用を図っていく方針だ。
これまでの取り組みにより、〇六年度に実施した「お客さま満足度調査」では、飲み水としての水道水に対する満足度は上昇していたが、いまだに三割以上が不満を持っており、マイナスイメージが完全に払拭されたとは言えない状況だ。
水道水を蛇口から直接飲める―世界でも珍しく、日本が誇る文化を絶やすことなく、次世代に確実に伝えていくため、引き続き強力に安全でおいしい水づくりに努力していきたい。
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