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特集 映像文化とまちづくり
テレビ番組も「地域」もつくる
住民ディレクター
―地域力を統合した村のインターネット放送局

(有)プリズム
代表取締役 岸本 晃

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 「住民ディレクター」とは地域づくりのディレクターのことで、テレビ番組づくりを通して総合的な企画力を身に付ける手法を指す。私がテレビ局で十四年間、ニュースや番組制作を経験して気付いた発想である。
 番組を作るには「自分が伝えたいこと」を企画し、取材、編集、放送する。苦労も多いが楽しい作業でもある。視聴者から反応があり、さらに次なる発信をしていくが、この循環を繰り返しているうちに総合的な企画力が身に付く。取材を通して今まで見えなかったものに気付き、編集では漫然と思い描いていた事が明確になり、いやが応でも自分自身の考えがハッキリ映し出される。
 私自身は熊本県内九十八市町村(約十五年前当時)を五年以上かけて二周半し、特に農林水産業に携わる人のたくましい生き様を大地や山林、海などの現場でダイナミックに学び、生き方に大きな影響を受けた。このような地域に根差した「人間力」と「テレビの力」を融合させて、「地域力」を発酵させるのが「住民ディレクター」である。

村の活性化が目的の「やまえ村民てれび」
 人口約四千人の熊本県山江村には、住民ディレクターが二十人おり、民放や熊本市のケーブルテレビ(村にはない)、衛星放送などで番組を作ってきた。そして数年前から、村の活性化を目的にインターネット放送局「やまえ村民てれび」を運営している。
 ブロードバンド普及率はやっと四%で、ほとんどの村民には見られない。しかし田んぼや温泉センター、村民の自宅が臨時スタジオになり、毎月各地区で番組を収録し、にぎわっている。やはりテレビ番組を作ったり、出演するのは面白いからだ。もちろん、企画から取材、編集、収録のカメラマンや司会、ゲストまですべてが村民である。昔なら数百万、数千万円もする機材を持つテレビ局じゃないとできなかった撮影や編集が、ITの進歩のおかげで今では家庭用ビデオカメラやパソコンがあればできる時代になった。
 実際、山江村では今年の正月に民放で独自の一時間番組を放送し、住民ディレクターの総合的な企画力が発揮された。反響も大きく、県民から四百三十一通のはがきが届いた。ローカル局では自前の情報番組でさえ、めったにない数である。しかもはがきにはどれもビッシリ「感動した」「山江に行ってみたい」などの感想が書かれていた。

第一号の住民ディレクターが村長に
 同村で第一号の住民ディレクター、元役場職員の内山さんが四年前、村長になった。彼はグリーンツーリズムや商品開発と情報発信を有機的に結び付けた、新しい産業興しの政策を始めた。住民ディレクターがその一翼を担っている。
 当初はビデオカメラの記録がなぜ村の振興につながるのか、村民や役場職員にも理解されなかった。しかし、住民ディレクターを学ぼうと全国各地からさまざまな分野の人が訪れて、マスコミでの注目度が上がり、村民の理解も深まった。昨年秋には全国から市民メディア関係の約二百人が訪れた。
 ここで住民ディレクターたちは日ごろ鍛えてきた企画力を生かし、訪問者の到着から解散までの全プロセスを村の支援を受けて事業化した。メディア分野だけでなく、訪問者の食事、宿泊、農家体験プログラム、学習会の運営などが住民ディレクターグループによってプロデュースされた。
 得意のインターネット放送局はライブで全国、世界にも発信した。名古屋から来た男性が放送直後、熊本市内にたまたま住んでいた旧友から「見た」との電話が入ったと感激していた。この素早い反応がコミュニケーションツールとして、テレビの優れたところである。人は知られることで元気になる。

普段着の会話と暮らしをそのまま発信
 最近、タレントが田舎を訪ねて面白おかしく村を紹介する番組が増えているが、山江村では誇張や過剰な演出は一切せずに、普段着の会話をそのまま発信することに専念してきた。日ごろの暮らしぶりをそのままの空気で発信する。そのことが十数年間継続できた秘けつだと思うし、着実な山江村ファンの拡大につながっている。つまり独自にマーケットをつくり出しているのである。
 今では、日本最大のIT機器展示会で全国を結ぶインターネット放送局のメインスタッフを任されたり、他地域の応援に出掛けることもひっきりなしである。同村を初めて訪れたほとんどの人が「岸本さんは随分大風呂敷を広げていると思っていたが、来てみたら、聞いていた話より十倍いいところだね」と語る。事前に番組を見た人が多く、自然体の情報発信がこういうところに生きていると感じる。
 しかし山江村は今、過渡期にあるかもしれない。本来目指していた総合的な企画力を持った住民は増えつつあるし、一次産業とITを結び付けて新しい産業を興すという目標にもかなり近付いてきた。しかし小さな村だから住民ディレクターには行政職員が多く、行政主導型でここまで来た。
 真の民間活力で事業化を図り、収益を上げる体制をつくるには、企業家の発想と行動力が求められる。しかも放送と通信の融合の問題がライブドア事件前後から大きな関心を呼んだように、これからの情報化は目まぐるしく変化し、進歩するIT業界の先端動向を読む力、使える力が求められる。

コミュニティづくりの最強の道具に
 元気な大人の背中を見て故郷に帰ってきた若者たちは、道具を繰るのは得意だが、農林業や村の生活には年季が入った知恵が必要だ。このマッチングをスムーズに行い、お金を生み出す力を持った村の住民プロデューサーの登場が未来を開いていくと思う。
 これからは情報を共有し、自由なコミュニケーションの場をつくることが、このような人材輩出の環境になると思われる。「自前のテレビ」をつくることが具体策につながる。
 山江村はテレビに必要なソフトは山積みされているが、ブロードバンド普及率をどう上げていくか、ITを活用できる環境づくりをいかに具体化するか、今まさに総合的な企画力が問われる新しいステージに入ったのではないかと感じる。テレビというコミュニケーションツールの活用が、「地域力」を統合し、次々と新たな企画・事業を生み出す手法とも言える。ゲームのように楽しみながら新たな発見をし、創造していくコミュニティづくりの最強の道具が今、私たちのすぐ手元にある。
(URL:http://www.prism-web.jp)

平成18年6月 特集 映像文化とまちづくり
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