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東京都大田区
「大田ブランド」を世界に発信
脱下請け型オンリーワン企業目指す

大田区産業経済部産業振興課長

内田信義

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 大田区はフルセット型高度加工技術の集積地として注目されてきた。多品種、少量、短納期でつくり出される製品は、高密度、高精度で、世界でも一目置かれるほどの技術力を誇ってきた。
 つくり出される製品そのものが「大田ブランド」であった。

揺らぐ屋台骨の金型産業

 日本の製造業を支えてきた大田区の町工場は、昭和五十八年のピーク時には九千を超えていた。現在は、六千を割っていると考えられる。
 大田区工業の基礎は、得意とする専門技術に特化し、高精度な加工をする中小零細企業によってつくられてきた。
 多くの工場は、「いかにつくるか(how to)」という職人芸に秀でているが、「何をつくるか(what do)」という目的意識が乏しいため、ニーズの把握や市場動向を見ることが苦手である。親企業の注文どおりに加工し、生産増強に励み、設備を拡充してきた。
 しかし、一九八〇年代から始まった大手企業の生産拠点の海外移転は、大田区の製造業にかつてない影響をもたらしている。
 東南アジアで金型といえば、「大田区」を指すように、金型は大田区のいわば地場産業ともいえる業種であり、「大田区ブランド」そのものであった。区内の金型業者は、簡単な図面から精巧で耐久性のある型を設計・製造してきた。
 金型は工業製品を量産するときに欠かせない部品の型枠である。自動化した加工機でつくられるが、入力するデータや設計図面は、長年培われたノウハウから生み出された各社の企業秘密だ。それが今、海外に流出している。
 製造技術・技能のノウハウが、現地企業に漏れ、大きな競争力低下に直結しかねない深刻な事態となっている。また、最近では、CAD/CAM(コンピューター支援設計・製造)によって自動加工が行われている。そこには、熟練を要する加工技術が入り込む余地がない。
 日本の製造業を支え続けてきた「陰の主役」であり、ものづくり日本の競争力の源である金型。
 大田ブランド「金型」は、厳しい状況の中でどう生き延びていくのか。

ナノテクで息吹き返す町工場も

 大田区には外国はもとより、国内各地からたくさんの人びとが訪れる。政府や自治体、企業経営者グループ、各種工業団体、そして大学など学校関係者が多い。区内の工場を見たこれらの人たちは、大田区の技術・技能を称賛し、帰っていく。日本のお家芸の金型など、比較的付加価値の高い金属加工分野で、区内企業が技術力で異彩を放ち、生き生きしている姿を目の当たりにしたからである。
 長い不況と、産業の空洞化は、大田区の製造業を「脱下請け型」のオンリーワン企業への道に目覚めさせた。
 特殊シリンダーに特化して、数々の特許や実用新案を取得し、「取引先から問題解決型企業と呼ばれる」典型的な開発型メーカー南部。紙幣計算機、焼肉の煙の吸引機、歯科用吸引機などに使われる小型真空ポンプの開発製造の三津海製作所。日進精機は、創業当時から技術志向が強く、リフレクター金型の製造技術を持つ。「自分たちで価格を決められる商品を持とう」を合言葉に、数値データを入力するだけで金属パイプを思いどおりの形に立体加工できる装置であるCNCパイプベンダーを開発した。へら絞り技術でH2ロケットの補助エンジンの先端部分から、液化天然ガスの圧縮用圧力容器など、特殊な部品の製造注文に応じてきた北嶋絞製作所。次世代の産業基盤を支える技術=ナノテクノロジーを駆使、高精度の金型加工向けなどに、ナノメートルレベルの超精密旋盤を開発したナノ。ボールネジを使ってナノレベルの位置決め技術を開発したケーエスエス…、既に区内にはナノテクで息を吹き返す元気印の町工場まで出てきている。
 これらの区内企業がつくり出す製品・技術は、大田区の企業でなければできない「大田ブランド」と言える。他社にまねのできない技術で生き残り、なお創意工夫と戦略で勝ち組といわれている企業が、区内にはたくさん存在している。

エンドユーザー型の製品づくりへ

 長い不況に耐えてきた大田区の町工場。構造改革の嵐の中で、生き残りをかけた最後のハードルに向かって、新たなスタートが切られた。
 その第一条件は、蓄積している技術力を生かし、より高度な独自技術を確立させ、それをもとに高付加価値の製品をつくり上げることだ。
 もはや横並びの技術・技能では仕事はこない。絶望的な価格競争が待っているだけだ。「オンリーワン技術」は、不況下でも元気印の町工場の代名詞となっている。
 第二に、徹底した多品種、少量、短納期生産に切り替える。このような形を確立できれば、それ自体が競争力になる。
 第三に、「脱下請け」をより進めることだ。持ち得る技術・技能を生かし、顧客が満足するエンドユーザー型のオリジナル製品をつくることである。

何をつくり、どう売るか

 中小企業が集積する大田区は、マニュファクチャリングミニマムというべき基礎的な工業生産機能の維持を、より図っていかなければならないだろう。
 また、現在地での操業継続の難しさを解決し、後継者へ継承する経営環境整備も重要である。
 大田区では、区内中小企業に対してさまざまなソフト支援策を講じてきた。その一つとして大田区産業プラザ(PiO)がある。異業種交流の中心的拠点として設置したものであり、都の専門的サービス機関と大田区の産業支援機関を合体させ、中小企業への総合的なサービスを提供できるセンターとして建設された。「いかにつくるか」を「何をつくり、どう売るか」に転換、零細製造業の弱点をいかに補完するかという方策に力を向ける必要がある。
 さらに、新製品・新技術への開発支援は、今後の大きな部分を占めることになる。現状の策を再検討し、より開発意欲の高い企業の掘り起こしと育成を図っていくことが大事である。
 日本が得意とするものは、熟練技能を生かし先端的な開発に結びつける総合的な技術である。区内中小企業は、この得意分野で生き延びてきた。今後、中小企業を中心とした新しい国際分業体制を築くことが重要となる中で、大田区の工業は中心的な役割を担うことが求められている。


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