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北海道北見市
地元主張型ビールへのこだわり
少量生産がもたらす割高な経費と税率が課題

オホーツクビール株式会社代表取締役

水元尚也

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ドイツには6千の地ビール

 私が最初にビール造りを思い立ったのは、昭和六十二年の夏に参加した農村計画の視察旅行後のことであった。
 スペイン、フランスの農村を視察し、最後にドイツ・バイエルン州食料農林省との共同研究発表のため、小さな農村をいくつか訪れたところ、ドイツではどの農村でもビール工場があり、そのレストランで地元のビールが飲まれていた。その数の多さはもとより、町民や市民のほとんどが当たり前というより、意識しないで町のビールを飲んでいることに驚いた。後でドイツ人の友達に、いわゆる「地ビール」をドイツ語で何というのか聞いたところけげんな顔をして、ビールは“BIER”でしかないと言い放った彼女の表情がそのことを物語っている。
 ドイツでは日本のように全国展開しているナショナルブランドのビールメーカーはほとんど存在せず、中小零細メーカーが供給しているが、都市部を含めると、その数千二百社、六千種類を超えるビールがあった。一八七一年、ビスマルクにより近代的国家を成したドイツは、さまざまな離合集散を重ね、地方自治、地方の権力が絶対的な力を持っていた。現在でも一九九一年、東西統合後の十四の州には、完全な自治権が与えられ、地域ごとに独自の文化や習慣があり、食事もビールも独自の味が受け継がれている。

友の会組織通し地元と相互理解

 今でいうところの「スローフード運動」の本質を併せ持つ、そんなドイツ国民が地元のビールやその歴史に誇りを持ち、何世紀も飲み続けていることに感銘を受け、平成元年「北見地域開発研究会」を設立。それを出発点に、原料調達・醸造方法・販売方法・資金調達や酒税法など、あらゆる角度から地元主張型ビールの醸造販売の研究に着手し、模索し始めた。幸い、地元は大麦・小麦の一大栽培地として恵まれていた。「ものづくりを止めると地域はやがて滅んでいく」と歴史が語るように、地元で栽培し、調達・加工・消費するものづくりは、自身が楽しむことはもちろん、結果として地元還元経済を担い、地元経済の自立を促し、より楽しく暮らせるのではないか。あのときの感銘がビールに収斂(れん)されたといえる。
 やがて、ビール最低醸造量が六十キロリットルへと大幅に緩和される改正酒税法が六年に施行された。同年三月にオホーツクビール株式会社を設立、十二月に日本第一号の「地ビール」製造免許を取得した。翌年には醸造場併設レストラン「オホーツクビアファクトリー」を開店し、それ以来、毎年十種類程度のオールモルトビールと創意工夫をこらした郷土料理を提供している。千三百人からなる「オホーツクビール友の会」組織を通して、地元民との相互理解を深めていった。あくまでも「地元民の地元民による地元民のため」のビール造りとビール文化の創造が私たちの原点であるが、ビール製造にあたり、地域だから許されるとか、中小企業だから許されるのではなくて、まね事ではない、本当のいいもの、やはり世界的な基準を目指さなければ存在価値がないと思う。

地域に合った材料と加工が必要

 それには麦、酵母といった原材料も品質確保の条件になる。北見農業試験場で開発された「北育19号」、現在「りょうふう」と呼ばれているビール用二条麦を私たちでは採用しているが、北海道のような積雪寒冷地、とくに米作の北限といわれている北見地方でも高品質の評価を得ており、冷夏の年であっても比較的安定した収穫量を誇っている。酵母については、世界で一番種酵母を持つドイツの酵母銀行「ワイエンシュティファン」やミュンヘン工科大学から種酵母を空輸している。その際に協力いただいているのが地元の北海道糖業である。私たちのために酒母免許を取得していただき、そこで種酵母から醸造酵母に増殖してもらっている。また、ビール製造で発生するビール糟も株主である畜産業の方に引き取ってもらい、ビール糟を食べさせて肥育した牛を直営レストランで提供している。
 かつて北見市でビール祭りを開催した際に、四日市に住むドイツ人のパン職人に地元の小麦でパンを作ってもらったが、そのとき彼は各研究機関に北海道の麦に関するデータを取り寄せ、分析していた。この地域ではハルユタカ、ホクシン、チホクコムギという三種類の小麦がつくられているが、普通のパン屋さんが中強力粉に属するハルユタカがいいと言う中で、職人さんの分析によるとドイツパンにはチホクコムギとホクシンを半分ずつ交ぜたのが、ちょうど良かったそうである。実際に、ビール祭りでは毎日完売の状況であった。
 このことで考えさせられたのは、食材をキチッと吟味して加工する技術がなかったのではないか、ということである。私たちの地域は農産物・水産物にしても素材だけを提供しているという考え方があったのかもしれないし、本当に自分たちの良さ、いいものを見つけることが少なかったのではないかと思う。地元の材料が必ずしもすべて良いというわけでもないし、逆に悪いわけでもないのだが、その地域に合った材料と加工の見直しが必要ではないかと思われた。
 また、ビール製造に関する技術と、その確保についても重要な課題と考えている。私たちでは北見工業大学大学院の化学専攻の者や東京農業大学出身者を採用したが、実際に北見工業大学では化学、電気の学生は地元に定着しないのが実態で、就業の機会がほとんどない。少ないながら私たちはそういった人材を留めることができたのではないかと思っているが、やはり地元の大学で卒業した学生が就業の機会をもたない地域は、廃れていくと考えている。だから、できるだけ産業の芽、それから派生するような産業の育成が急務であるかと思う。

北見市でのシェア50%を目指す

 現在、日本には二百六十社を超える地ビールメーカーがある。しかし、その経営は必ずしも順調ではない。少量生産による割高な材料費などの経費問題、大量生産のビールメーカーと同率の税率など、少量生産には不利な規制の厳しい環境下にあり、実際に、地ビールは大手ビールと比べ二倍〜三倍の価格で売られている。
 このような環境下では、まず飲んでいただけるお客さまを特定することで販売経費を抑えつつ、製造量を増やしていくことができるのではないかと考えている。また、当たり前のことであるが、大手メーカーより個性的でおいしいビール造りに徹していくことが現状における最善策と考えている。ナショナルブランドを含め現在のシェアは北見市内で三%であるが、目標としてシェア五〇%を目指したい。
 幸い、私たちのビールは、「やはりオホーツクビールは美味い」と地元の人からもお褒めを頂戴しているし、日本のビールコンテストでの金賞受賞、イギリスで出版されている“ポケット・ビア・ジャーナル”で三ツ星をいただいたことを誇りに、たゆまぬ努力を続けてまいりたい。


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