aozora.GIF kawa.GIF



tensen.gif

福岡県飯塚市
高齢者の知識、技能を子供に伝える
学習ボランティアとして学校に派遣

飯塚市学習ボランティア派遣事業事務局長

今中兵一

tensen.gif

「筆進む 中学生(まご)の笑顔に 春近し」
 中学校で書道を教える学習ボランティアの高齢者が詠んだ俳句である。
「来年もまた教えて」「給食を一緒に食べよう」と、子供たちから声が掛かる。運動会や卒業式などの学校行事へ誘う子供たちからの招待状が届く。さらには感謝やお礼の手紙…。学習ボランティアとして市内小中学校で活躍されている高齢者の生きがいや喜びは筆舌に尽くしがたいものがある。

高齢者の「生きる喜び」を追求

 飯塚市は福岡県のほぼ中央部に位置し、人口約八万二千人、「英知を豊かさに!活気あふれる学園都市」を標榜する都市である。ここ飯塚市では、十九の小中学校や十二の児童センターへ地域の人材を派遣し、学校教育を支援する派遣事業を展開している。
 本事業は、福岡県高齢者の社会参加モデル事業として平成五年度よりスタートし、七年度からは飯塚市の単独事業として継承・発展させているものである。
 高齢少子化・生涯学習社会を迎え、(1)高齢者の社会参加、生きる喜びと価値を追求する(2)高齢者との触れ合いにより、子供の感性を磨き、健全な育成を図る(3)地域の教育力の回復や学校の活性化を目指す―という意義・目的を基盤にしている。
 意欲ある高齢者を、学校や児童センターからの要請に応じ、派遣している学習ボランティア事業は、教師とチームティーチングを組み、学習援助者として活躍している。ボランティアは当初、「ふくおか高齢者大学」の在学生や卒業生のお年寄りから登録を募ったり、市内に八つある公民館にポスターを掲示して登録を呼び掛けたり、あるいはもともと学校とつながりのある人びとに働き掛けたりしながら、二百人程度の登録者を確保した。現在では毎年登録を更新し、個人登録二百五十人程度と、「飯塚市手話の会」や「飯塚市点字朗読ボランティアサークル」、さらに留学生支援組織である「友情ネットワーク」など五つの団体ともネットを組み、約三百人を超す登録者を抱えている。

「教え子」は10万人を突破

 派遣先での活動は、ゲートボール・バウンドテニス・パソコン・折り紙といった「クラブ活動」関係や、野鳥観察・稲作・三世代間交流集会・昔の生活といった「学年・学校行事」関係のほか、ここ二、三年は「教科学習」での活用も増加している。
 たとえば、国語科では朗読・書写・詩歌鑑賞・手話や点字の体験学習、生活科では伝承遊び・竹とんぼやたこの製作活動・菜園活動、社会科では地域史・被爆体験談・室町時代の文化(水墨画や生け花の体験学習)、算数科では小三の珠算学習、図工や美術科では切り絵・木彫り、体育科ではエアロビクス・水泳・フォークダンスなどと、学習ボランティアが教えることは実に幅が広い。中学校での選択教科(音楽・技術科・家庭科)にも応じている。総合的な学習の時間をはじめ、すべての教科で派遣要請がある。
 当初の平成五年度は延べ三百九十人程度であった派遣者数は、年々増加の一途をたどり、十一年度では延べ二千人を超え、五年度からこれまでに、学習ボランティアと触れ合った児童・生徒数は軽く十万人を突破した。
 当初のころの学校現場での活用状況を振り返ってみると、教科・道徳・学校行事・クラブ活動と、まさに学校教育のすべての領域で活用されているが、小学校では学校行事やクラブ活動に、中学校では一部の教科に偏りがみられた。
 そこで、学校完全週五日制や総合的な学習の時間の構築が緊急課題となった十年ごろから、「即登録・即活用」の方針を学校側へ提起し、教科・学級担任へ「ユニークなアイデア」「発想の転換」によって、全教科で学習ボランティアの活用を積極的に取り入れるよう要請した。同時に、派遣事務局としてはボランティアや教師と協議を重ね、具体的な「学習プログラム」を作成し、その活用推進に力を入れた。その結果、すべての教科で積極的な活用が推進された。

学校週五日制の完全実施に向けて

 しかし、まだいくつかの課題は残っている。その一つは、約二百五十人の登録者の中で、一年間一度も派遣できなかった方々が百人程度いることだ。その理由は、八年間の実績に立って、どうしても「ご指名」での要請がきてしまうことがある。子供たちにとって、「継続」することの教育的効果を考えると、要請通りに派遣するほかはないが、登録者名簿での領域・分野が抽象的な表現で分かり難いことも考えられる。
 二つ目は、市内すべての学校で活用されてはいるが、学校間で派遣の偏りがあることだ。ただ、今後は異動先で活用の効果を実感した教師が新たな取り組みを始めるといった広がりは期待できよう。
 三つ目は、学校教育の急激な変容(学習時間の編成)を未消化のまま、事業を推進したのではないかと考える。一時間一時間の教材分析を通して、より有効な学習ボランティアの派遣、学習プログラムの作成・見直しの必要性がある。
 十四年度からの学校週五日制の完全実施を目前にし、総合的な学習の時間における地域人材の活用促進、中学校区単位での学習ボランティア集団の構築、学校・父母教師会・地区公民館の三者一体となった学校教育支援の教育環境づくりなどが、事務局としての重点課題であると考える。
 そのためには、学校訪問や家庭訪問、地区公民館や父母教師会への働きかけなどの訪問活動を密にし、学校・社会の連携・融合の環境づくりはもちろん、コーディネーターとしての職務を果たしたい。
「子供との楽しい会話やふれあいを想い浮かべ、一人悦に入る」。あるいは「子供たちに接すると、自らも若返るようだ」。学習ボランティアの高齢者たちの感想である。自らの長い人生経験や知識、技能が教育現場で役に立っているという喜び。そして、子供たちもそうしたお年寄りから、教師とはひと味違うものを学ぶ刺激と楽しさを受け取る。事務局もまた、子供の笑顔、高齢者の喜びを一身に浴びる立場に感謝するのである。

●前ページへ戻る

●5月号の目次へ