aozora.GIF kawa.GIF



tensen.gif

「地域の自立」後押しする効果は絶大
二〇〇〇年イベントの意義

三菱総合研究所主席研究員 集客文化環境部長

小松史郎

tensen.gif

 二〇〇〇年を迎えて今、世界中が世紀越えイベントやミレニアムイベントに沸き返っている。しかしながらキリストの誕生を一年とする西暦の上では、二〇〇〇年は二十一世紀でも、第三ミレニアムでもない。それは来年である。
 なぜこんな基本的な誤ちが世界中で起こっているのであろうか。

なぜ二〇〇〇年のイベントなのか

 ハーバード大学のS・グールド教授は著書『千年期を問う』の中で、「千年という周期は何の科学的根拠もなく、私たちが十進法を使っているからでしかない」と喝破している。
 つまり十進法に慣れ親しんでいるわれわれにとって、二〇〇〇年というゼロが三つも連なる年は特別に思えるのは当然なのである。また、ゼロには始まりという意味があるため、二〇〇〇年は第二ミレニアムの最後の年というよりは、第三ミレニアムの始まりの年という意識が世界的に根強いのである。
 このような「世紀の論争」は、ある意味では馬鹿げた論争である。しかしながら、この論争は興奮を呼ぶものらしく、百年前の二十世紀の始まりの時も同じような論争が行われている。一九〇〇年一月十三日号の『科学アメリカ』誌は、「それは尊重に値する過ちであり、長く続き、たぶん消えることのない問題である」と、今日の状況を見抜いている。
 とはいえ、二〇〇〇年イベントは単なるキリスト生誕二〇〇〇年の周年イベントではない何かがある。それは経済の低迷が世紀末現象と呼ばれているさまざまな社会不安など、何となく閉塞感に覆われている現代を一度清算し、新しい世紀または新しいミレニアムに向けて、明るい見通しを立てたいという「熱い想い」である。これがキリスト教国のみならず、世界中に広がっているのが今日の状況である。したがって、新しい世紀、あるいはミレニアムを祝ってイベントをする理由は、人びとがこの「熱き想い」に共感してくれる精神的な下地があれば、それで十分である。それが二〇〇〇年であろうと、二〇〇一年であろうと、どちらでも説明はつくし、大した問題ではない。

地域にとってイベントはなぜ有用か


 二〇〇〇年および二〇〇一年に数多くの自治体でイベントが計画され、着々と準備が進んでいるが、でも示されるように、新しい世紀やミレニアムを祝うことそれ自体を目的にするイベントは、年末大晦日のカウントダウンイベントはともかくとして、ほとんど例がない。むしろそれは当然のことで、世紀が変わる、ミレニアムが変わることは、地域がイベントを行う目的にはならないからである。地域がイベントで目的とすべきは、抽象的ではあるが地域の活性化であったり、地域産業の振興であったり、地域のイメージアップや地域文化の振興などであり、地域という限定が付くところに、地方自治体が主体的に関与できる理由がある。
 それでは、長くてもたかだか半年くらいの時間限定のイベントに、地域を変えるような力が本当にあるのだろうか。議論を単純化するうえで、ここでは一定規模以上のパブリックイベントに限定する。
 地域が何もしないでも右肩上がりの成長を続けられた時代は終わった。これからは地域自らが発意し、計画し、実行する「地域自立の時代」である。これまでは工業団地を整備し、道路・空港などのインフラ整備を行って、外部の力のある企業を誘致することが最も有効な方法であった。しかしながら、わが国全体ですら製造業をはじめとする産業の空洞化が進み、サービス経済化が進む中で、この方法は行き詰まりを見せている。外部からではなく、内発的な地域の振興と、それによる地域の自立しか、地域が生き残る道はない。
 そのためには、ハード的な受け皿整備というモノ的な発想から脱却し、地域自らがコトを興すという発想が必要である。堺屋太一氏が十数年前に提唱した「イベント・オリエンテッド・ポリシー」(イベント志向政策)が二十一世紀の地域運営にとって極めて重要性を増してきているのである。二〇〇〇年イベントも世紀越えの一時的現象と見るのではなく、「二十一世紀の本格的なイベント時代の始まり」と見たほうが正しい。

予定されている主な記念事業(編集部作成)
●自治体 ●記念事業・実施期間 ●内容
秋田県 秋田ワールドゲームズ2001
(2001年8月16日〜8月26日)
スポーツ競技。日本で初の開催。80カ国、3000人参加予定。公式種目とデモンストレーション種目で構成。
山形県 2000年プロジェクト(仮称) 地元のNPOネットワークが県内各地で行うフォーラム、ワークショップの開催、ボランティア・デイの実施などに県も協力・参加する。
福島県 ジャパンエキスポ「うつくしま未来博」
(2001年7月7日〜9月30日)
21世紀の新しい生活圏―美しいふくしま―の創造」を目指す県民運動のシンボル事業として開催。12のパビリオンを出展。
埼玉県 彩の国 21世紀記念事業(仮称)
(2000年通年)
メーン事業のさいたま新都心街びらき事業のほか、子供夢サポート事業、21世紀コンサートなどを予定。
東京都 東京2000年祭
(1999年12月〜2001年1月)
江戸・東京文化歳時記、東京・千年紀シンポジウム、世界の子ども交流コンサート、都市の情報・体験広場などを次々に開催。
神奈川県 2001年「希望の年」記念事業
(2001年通年)
千年樹(紀)植樹事業、ロボフェスタ(ロボット創造国際競技大会)神奈川2001、第10回全国ボランティアフェスティバルかながわなどを予定。
新潟県 緑の百年物語 2001年から100年かけて県民参加による植樹運動を展開。
詳細は検討中。
富山県 2000年とやま世界こども演劇祭
(2000年8月1日〜7日)
日本で初の開催。23カ国の市民劇団、児童劇団を招待。演劇公演と演劇・舞踊・絵画のワークショップ。
福井県 恐竜エキスポふくい2000
(2000年7月20日〜9月17日)
恐竜博物館、大型映像館、化石発掘体験。
岐阜県 ウェルカム21ぎふ
(2000年1月1日〜12月31日)
シンボルイベント(子供未来博2000、ストリートカーニバル2000)と5圏域ごとのイベントで構成。
静岡県 チェンジ伊豆2000!(2000年通年)
どきどき事始め。2001(2001年通年)
伊豆全域の観光イベント(「チェンジ伊豆2000!」)、「緑・花・祭」、「東海道400年祭」(「どきどき事始め。2001」)など。
滋賀県 湖国21世紀記念事業
(2001年3月〜11月)
自然と文化の新しい姿を探る実験を2001年にスタートさせる。記念イベント、市町村事業、民間主体事業を組み合わせる。
京都府 世紀をむすんで開く展覧会(仮称)
(2000年9月〜11月)
京都府の歩みを振り返りつつ、21世紀の姿をパネル、文書などで展示する。
大阪府 世界民族芸能祭“ワッショイ!2000”
(2000年7月28日〜8月6日)
世界の民族芸能の公演、コンサート、ビーチサッカーなど多彩なイベントを開催。
兵庫県 淡路花博ジャパンフローラ2000
(2000年3月18日〜9月17日)
世界の庭・日本の庭をレイアウトした国際庭園世界の食べ物、野外シアターなどが設けられる。
岡山県 おかやま後楽園300年祭
(2000年1月1日〜12月31日)
新世紀への地域づくりの願いを込めて、歴史再現イベント、野外劇場、市民学習講座などを展開。
山口県 ジャパンエキスポ「山口きらら博」
(2001年7月14日〜9月30日)
「いのち燦めく未来へ」をテーマに、音と映像によるイリュージョンシアター、市町村の産業を紹介するパビリオンなどを展示。
佐賀県 元気まつり・佐賀21 1999年から2001年まで祭りをリレーする。99年は県立森林公園で産業体験イベントなど。2年目以降の内容は検討中。
長崎県 日蘭交流400年記念事業
(2000年1月〜2001年3月)
オランダとの新しい交流関係の構築をめざして、オランダ花博、国際ペーロン選手権大会などを展開。
秋田市 ミレニアムクリーンアップ事業
(2000年4月〜9月)
市内・観光地のクリーンアップ作戦
高崎市 市制100年記念事業
(2000年通年)
西暦2000年に全国で唯一市制100周年を迎える。記念式典や姉妹都市サミットなどを計画。
京都市 21世紀京都幕開け記念事業
(2000年の年末〜2001年の年始)
市民からアイデアを募集。
姫路市 ひめじウェルカム21 開港40周年(99年)、姫路城国宝指定70周年(2000年)などに合わせて各種イベントを展開。
北九州市 ジャパンエキスポ「北九州博覧祭2001」
(2001年7月4日〜11月4日)
「環境と調和した活力ある産業都市」を主眼として、モノづくり体験コーナー、アジアの都市との交流コーナーなどを展開。

※このほかに検討中のところ=北海道、徳島県、香川県、熊本県、前橋市、川崎市、京都市、神戸市、広島市、高松市など。

経済効果と社会的・文化的効果

 地域イベントの有用性については既に多くの研究がなされ、日本イベント産業振興協会がイベント業務管理者養成講座のテキストとしてまとめている。図1はそれをもとにまとめた「イベントの開催効果」である。
 地域イベントの開催効果は、大別すると「経済効果」と「社会的・文化的効果」に分かれる。
 経済効果は、イベントの参加者や主催者の支出に伴って短期的に発生する「地域経済拡大効果」と、イベントによる情報交流や人とのつながりに伴って長期的に影響を及ぼす「産業構造の高度化効果」がある。
 地域経済拡大効果には、雇用拡大効果や税収拡大効果が含まれる。短期的なイベントが地域の産業構造の高度化に結び付く事例は決して多いとはいえないが、「ぎふ中部未来博」のように七つの県パビリオンのテーマがそのまま梶原県政の産業政策の七つの柱となり、着実に効果を上げているような模範的な事例もある。
 社会的・文化的効果には、「知名度・イメージ向上効果」「地域のアイデンティティ向上効果」「環境整備促進効果」「地域文化振興効果」「人的チャンネル・情報チャンネル拡大効果」「社会教育効果」「国際交流促進効果」がある。
 知名度・イメージ向上効果は、集客のための大々的な広報や宣伝活動、およびイベントが発信する中身から創り出されるもので、最も基本的ではあるが、開催地が新たに売り出したい場所であったり、あまり良いイメージを持たれていない都市である場合は、極めて有効な手段となり得る。
 地域のアイデンティティの向上のためには、イベントを創り上げていく過程で地域の人びとの参加がなされているか、地域アイデンティティに基づくイベントづくりがなされているかが重要である。これによって行政と住民、最近であればNPO(民間非営利団体)という新たな地域づくりの担い手との連帯意識が生まれるという効果も期待できる。
 環境整備効果は、イベントの開催に間に合うようにと、道路整備や公園整備、駐車場整備などが前倒しで整備される場合の効果である。
 地域文化振興効果は、イベントが地元の伝統文化や新たに起こっている文化の発表の場になることによって、地域文化が再発見されたり、質的に高まる効果である。
 人的チャンネル・情報チャンネル拡大効果は、イベントがなかったら知り合うことがなかった情報をたくさん持っている外部のキーパーソンや地域の人同士のチャンネルが拡大し、チャンネルの質的な向上が行われることである。
 社会教育的効果は、イベントが提供する新しい情報や知恵がもたらされることであり、国際交流効果はイベントの中身が国際性を持ち、多くの外国人が参加することによって地域が得る効果である。
 以上が地域イベントの開催効果と呼ばれるものの内容であるが、これらを一言で言えば地域活性化効果といえよう。イベントは、地域財政が厳しい中で自立を目指して取り組まなければならない、地域活性化のためのコストパフォーマンスの高い、極めて有効な手法なのである。



イベントが持つ魔法の力

 イベントのコストパフォーマンスの良さを、地域経営の面から見てみよう。ここでは過去に開催されたジャパンエキスポの平均事業構造によって述べる(図2参照)。
 最初に、主催者である県は地域活性化のために博覧会を開催することを発意する。そこで、県として用意すべき事業費を仮に百億円とすると、パビリオンを建てたり運営するための総事業費は、民間参加企業あるいは協賛企業からの負担金と入場者からの入場料などの収入が県事業費と同額の百億円ずつ調達され、計三百億円になる。
 さらに、過去の地方博の平均で見ると、総事業費と同額の三百億円が道路や駐車場、公園などのインフラ整備やイベントホールなどの恒久施設として、博覧会を契機に投資される。この負担は国の補助金が百五十億円、県が百億円、市町村が五十億円くらいが平均であろう。
 ここまでは県が発意したことによるイベントの直接経済効果で、県が最初に用意した事業費百億円の六倍になっている。関連事業費の県負担分を加えた二百億円から見ても三倍である。
 さらに、この六百億円が地域間、産業間の取引構造を通じて波及することによって生じる二次生産誘発額は、県内が三百億円、県外が九百億円となり、全体の経済効果は千八百億円とふくらむ。当初、県が用意した事業費百億円から見れば、全国では十八倍、関連事業費の県負担分を含めた二百億円から見ても九倍という、驚くべき拡大効果となる。県内だけで見ても、県の初期事業費の九倍、関連事業費の県負担分を加えた場合でも、四・五倍の拡大効果である。
 このような経済効果は、県が博覧会をやろうと発意しなければ、全くゼロなのである。これがイベントの持つ魔法の力である。
 これだけ投資効率が良く、早期に回収できる事業はめったにない。そのうえ、前に述べたようなさまざまな開催効果がある。青島前都知事の都市博中止事件以来、地域イベントには逆風が吹いている。しかしながら、地域経営という視点から見れば、自治体の首長が、このような地域イベントをやらないということはむしろおかしい、といえるのではなかろうか。
 今年から全国各地で繰り広げられる二〇〇〇年イベントは、このような開催効果が十分発揮できるようなイベントになることを期待したい。

※「なぜ二〇〇〇年イベントなのか」の部分は、イベント産業振興協会の研究成果『大世紀越え二〇〇〇年イベント』を参照させていただいた。

●前ページへ戻る

●1月号の目次へ