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地方自治の新たな歴史を拓く

全国知事会会長・埼玉県知事

土屋義彦

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ミレニアムの年と「未来への責任」

 新年おめでとうございます。
 今年は西暦二〇〇〇年、千年に一回のミレニアムの年にあたります。歴史の流れそのものに区切りはありませんが、だれしも特別の感慨を持つのではないでしょうか。ここに改めて過去千年を振り返り、先人たちの努力の積み重ねが今日を築いてきたことを考えますと、まさに歴史の重みを痛感せざるを得ません。これまでの千年が人類に与えた影響につきましてはさまざまな見解があろうと思いますが、「文明の進歩」に貢献してきたことは確かでございます。
 しかしながら現代社会は、世界人口の急増や地球環境の破壊などの困難な課題に直面していることも事実です。未来に関する不安の要素が多々あり、近未来を含め将来的にどのような社会システムが出現するのかは、想像の域を超えています。願わくば今日以上に「人間の尊厳」が重視される社会であることを切に望みます。歴史をつくるのがわれわれ自身であることを自覚すると、「未来への責任」は重大です。

地方が自ら決定できる自治の確立を


 私は、長年国政に携わり、今は地方自治に情熱を傾けています。地方自治制度は、現行憲法のもとで成立しました。わが国の長い歴史において、地域住民が初めて「自ら治める」制度を手にしたと言ってもいいでしょう。
 制度創設後の半世紀の間に、地方自治がわが国の政治風土にも定着しつつある反面、さまざまな課題も浮き彫りにされています。たとえば、国による広範な関与の実態です。機関委任事務制度や国庫補助負担金制度など、権限や財源に国の縛りがかかることにより、地方の独自性や地域性の発揮にいろいろ制約がありました。
 確かに、中央集権型の行政システムは、地方のナショナルミニマムを達成するうえで大きな原動力でした。高速道路などの基幹施設だけでなく、身近な生活基盤も整備され、加えて情報通信インフラの飛躍的な発達により、生活水準の地域間格差は急速に縮小してきました。過疎地域での人口流出や中山間地域の産業停滞といった構造的な問題を抱えつつも、多くの地方都市では一定レベルの質を有する物的空間が構築されています。
 しかしながら、一方では、どこの地方に行っても同じような都市施設、文化施設が整備され、地方の歴史的背景や個性といった物量では測りきれない貴重な財産を失いかけている気がします。「ものの豊かさ」が満たされつつある今、「心の豊かさ」が強く求められる所以(ゆえん)です。画一的な行政ではなく、多様性を前提にした地方の個性が優先される行政に、住民の価値観が移りつつあります。
 同時に、成熟しつつある社会においては、地域行政における「選択性」も重要です。施策の優先順位を見極めつつ、限られた財源を効果的に配分することです。その際、多様性、選択性、優先性の尺度は、地域住民の意思を踏まえつつ、自治体自らが決めなければなりません。
 そのために必要なのが、自己決定を可能にする地方分権です。地域のことは地域で決められる権限と、それを裏打ちする財源を地方に移すことです。その意味で、機関委任事務制度の廃止を柱とする地方分権一括法の施行は、歴史的に重要な分岐点になるはずです。
 私は日ごろから、「市町村が豊かにならなければ、県も国も豊かにならない」と主張しています。真の地方自治を確立するためには、市町村の自立が不可欠です。地方分権一括法の成立を機に、地方分権をなお一層推進することで地域を活性化し、地域を豊かにする。そのことが、結局はわが国全体の繁栄につながるのだと思います。

住民が真の主役である「地方の時代」に


 ところで、私が、平成四年に二十七年間お世話になりました国会を去り、地方行政に身を投じたのは、郷土の方々の熱い期待に応えたいとの思いによることはもちろんでございますが、「政治の原点は、やはり地方自治にある」との政治信条に基づいてのことでもありました。国民の政治離れが指摘されて久しいところですが、これは、民主主義の学校とも言われる地方自治が、三割自治などと揶揄(やゆ)されている現状と無関係とは言えないと思います。
 環境問題、防災対策、社会福祉など、多くの政治課題、行政課題は地域と密着しています。課題解決に向けて、地域のコンセンサスを民主的に形成することが重要なポイントです。そのためには地域住民が参画できるシステムの構築を通して、多くの議論を積み重ねることが必要です。こうした議論の蓄積により、より良い施策の選択が可能になるのです。多角的な議論がないままに決められる施策は、「住民の満足度」を満たすことはとてもできないでしょう。住民一人ひとりの顔が見える地域行政を実現することが大切です。こうした観点から、改めてわが国の自治を考えるとき、住民自らが施策形成に参画するシステムはいまだ不十分であると思います。地方分権は、住民が行政のイニシアチブを取り得る可能性に満ちています。二十一世紀において、地域住民が真の主役である「地方の時代」を完成すべきです。

終わりに


 明治の先覚者である福沢諭吉は、「一身独立して一国独立す」の気概をもって時代を疾駆しました。それから一世紀を経てしばらく、「個の確立」が現実になってきた感があります。個々の自治体が受け身から脱し、能動的に地域行政を担わなければなりません。それとともに、地方自治行政に携わるすべての職員が自立の意識を持って職務を遂行すべきであり、組織の長は、勇気ある決断と行動力で自治をリードすべきです。
 このミレニアムの年の初めにあたり、私は「自我作古」の思いを一層強くしています。全国の知事と力を合わせ、十年後、百年後の歴史の礎を、みなさんとともに創り上げていきたいと念願します。
 新世紀が、すべての人びとに幸福をもたらす世紀になるよう、全力を尽くす決意です。

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