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北海道(古平町(ふるびらちょう)

出羽丸海難(でわまるかいなん)時の美談(びだん)を今に伝える「シコロの木」
古平町(ふるびらちょう)の人たち



ロープにかごをつり乗員を救助する
 明治四十五年(一九一二年)三月十九日、古平(ふるびら)で後々まで語り伝えられる衝撃(しょうげき)的な海難(かいなん)事故が起きました。前日からの激しい風と大波で、古平湾に避難していた第二出羽丸(でわまる)(五○○トン)のいかり綱が切れ、強風にあおられて厳島神社(いつくしまじんじゃ)下の浅瀬に乗り上げてしまったのです。
 船には、山形県の港から利尻(りしり)方面の漁場に向かう漁師や乗組員ら合わせて一八○人が乗っていて、漁具や漁業関係の資材も積んでいました。
 前浜で起きた海難事故を見て、警察や消防組合を始め町の人々が駆けつけ全力で救助にあたりました。激しい波で船体は傾き、寒さのなかで乗員の生命も危険な状態になったため、陸と船の間にロープを張り渡してかごをつるし、それを使って乗員を船から助け出すことになりました。
 船からロープを結んだ木樽を岸に流しましたが、なかなか届きません。すると、そのとき「カネコの一郎」という一人の若者が海に飛び込み、ロープを拾い上げたのです。その拾い上げたロープにさらに太いロープを結び付け、船と裏山の(がけ)っぷちに生えていたシコロの大木との間に張ることに成功しました。そのロープに竹かごをつり下げ、人を乗せて船に乗っていた人を次々と救助したのです。途中で波にたたかれて振り落とされるということもありましたが、雪どけの冷たい海、激しい波のなかでの勇敢(ゆうかん)な救助活動と懸命(けんめい)看護(かんご)は、海に生きる者の勇気を示す美談(びだん)として広く知れわたったのです。
 また、大勢の町民が息をつめて見守るなかで行われた人命救助は、町民にも大きな感動を与えるとともに、改めて海難事故の恐ろしさを見せつけたのでした。
 やがて時が移り、昭和五十九年(一九八四年)十二月に函館市(はこだてし)に住む佐藤亀治(さとうかめじ)という人から、一通の手紙が古平町の港町(みなとまち)町内会に届きました。佐藤さんは、第二出羽丸海難のときに自分の母親も無事救助されたということで、町内会を通じて神社に何回も寄付金を送ってくれていました。しかし、その手紙は記念碑(きねんひ)建設についての依頼でした。
 海難当時、母親のツルさんは二十歳でしたが、町民の必死の救助活動により九死(きゅうし)一生(いっしょう)を得て懸命の看護を受けたことをつねに家族に語り、感謝の気持ちを終生(しゅうせい)忘れなかったそうです。
 「その母も亡くなり、自分も役所(函館港湾事務所)を退職するので、この際せめてもの恩返しをしたい」という手紙でした。
 港町町内会では、横川幸男(よこかわゆきお)神社委員長を中心にこの計画を進めることになりました。建てる場所は、海を見渡せる事故とゆかりのある厳島神社境内(けいだい)とし、記念碑の形なども協議して決められました。
 記念碑は遭難者救出(そうなんしゃきゅうしゅつ)の主役となったシコロの木にちなんで、「シコロの碑」と命名され、題字は小樽(おたる)海上保安本部の伊美克巳(いみかつみ)部長が書かれました。除幕式(じょまくしき)は昭和六十年(一九八五年)九月十六日、厳島神社例祭の前日に畑澤(はたざわ)町長や港町町内会、その他関係者多数が出席して行われ、その席上で佐藤亀治さんは「今は亡き母親の供養(くよう)と、七三年前、必死に救助にあたっていただいた古平町民に感謝します」とあいさつをされました。
 ところで、シコロの木はその後どうなったのでしょう。シコロの木について沢江町(さわえちょう)山條(やまじょう)カズさんが、幼いころの思い出を次のように話しています。
 「子どものころ、そのシコロの木のあたりで遊んだことがありましたが、その木は倒れてしまって、根は腐ったまま残っていました。ふた抱えくらいもある大きな木でした。また、磯の掘割りに死体が上がったそうで、そこでは泳ぐな、と父にいわれた記憶があります」
 実は、遭難事故のあった後、シコロの大木の木肌をけずり「人命救助の木」と書き入れられていましたが、そこから腐れが入って倒れてしまったのです。しばらくはそのままでしたが、昭和五十年ごろになって由緒(ゆいしょ)あるこの木を、このまま腐らせてしまうにはしのびないということで、残っていた根元を掘り起こし、厳島神社のなかに保存しておいたそうですが、残念ながら傷みがひどくなって処分されてしまい、今は何も残っていません。
 その後、「二代目シコロの木を植えては…」という話が持ち上がり、平成五年に記念碑の後ろに植えられたのが現在のシコロの木です。


【出典、参考文献】
「町史編纂室資料」


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