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北海道(江差町(えさしちょう)

北の大地で町を結ぶ道を開いた男たち
麓長吉(ふもとちょうきち)江差(えさし)の人々



江差町の中心市街地。手前は江差町のシンボル「かもめ島」
 北海道の海の玄関口、函館(はこだて)から江差(えさし)までは車でおよそ一時間三〇分です。今では何の苦労もなく行き来できるこの山道も、その昔は大変な難所として知られていました。
 その難所を切り開いたのが、寡黙(かもく)のなかにも情熱を持った長吉(ちょうきち)を始めとする男たちです。函館と江差を結ぶ道は、彼らの再三にわたる挑戦によって開かれました。
 嘉永(かえい)三年(一八五○年)の秋、江差の商人だった鈴鹿家(すずかけ)に、炭焼き職人が一人の男を連れてきました。男の鋼鉄(こうてつ)のように頑丈(がんじょう)な体と燃えるような輝くまなこには、邪気(じゃき)のない誠実さが(ただよ)っていました。のちに麓長吉(ふもとちょうきち)と名のったこの男は、能登国(のとのくに)(現在の石川県)の農家の四男として生まれ、北海道へ向かう材木運搬(うんぱん)船で(かみ)(くに)(現在の北海道(かみ)国町(くにちょう))にたどり着いたことだけは話しましたが、その他は押し黙ったままでした。しかし、多くの人を動かして商売の荒波を乗り切ってきた鈴鹿甚右衛門(すずかじんうえもん)眼力(がんりき)は、この男のなかに限りない魅力(みりょく)と人間性を見抜いていました。
 鈴鹿家に雇われた長吉は、雑事には労を惜しまず精力的でしたが、本業の商売には少しも興味を示しませんでした。聞けば商人になる気はないといいます。それではということで甚右衛門が紹介した厚沢部(あっさぶ)鶉村(うずらむら)で木の伐採(ばっさい)などの山仕事をすることになりましたが、そのかたわら農作業にも精を出しました。
 当時、江差から箱館(はこだて)(現在の函館市(はこだてし)。当時は箱館と書きました)にいたる道はまだ開かれていませんでした。特に厚沢部から大野(おおの)の間は、先住のアイヌの人々が山越えをする際に自然にできた、幅二〇センチメートルほどのわずかな山道がやっと通っているだけでした。難所といわれたこの道は必要に迫られた人が行き来するだけでしたが、それでも毎年多くの遭難者(そうなんしゃ)が出ていました。
 打ち続く悲惨(ひさん)な旅人の遭難に心を痛めた長吉は、鶉山道(うずらさんどう)開削(かいさく)することを決心し、同じ(こころざし)を抱いていた大悲庵(だいひあん)(現在の円通寺(えんつうじ))の住職道仙(どうせん)と協力して、長吉は鶉村側から、道仙は大野側から開削を始めました。長吉は地域の人たちに協力を頼み、道仙はお寺の信徒(しんと)たちに手伝ってもらって進めましたが、工事は途中で資金不足となって完成しませんでした。
 時は流れ、安政(あんせい)二年(一八五五年)、江戸幕府は中国貿易の赤字を解消するために、北海道が主な産地となっていた長崎俵物(ながさきたわらもの)(長崎から中国に輸出された干アワビなどの海産物)と呼ばれるものを輸出していましたが、これを陸路で大量に箱館に集めるために、道路づくりを急務としていました。そこで、幕府の御用商人(ごようしょうにん)であった甚右衛門は、鶉山道の道幅を広げることにしました。そして、この仕事を長吉に頼むことにしました。
 そのころ、長吉は材木を切り出す杣場(そまば)と呼ばれるところで働いていましたが、鈴鹿家の恩義(おんぎ)とかつて未完成に終った工事を成しとげるために、快くこの申し出を引き受けました。
 こうして、安政五年(一八五八年)三月に長吉を棟梁(とうりょう)として始まった大工事は、幅二(けん)(約三・六メートル)、橋は七ヵ所、延長十一()(約四三・二キロメートル)の道になり九月に完成しました。
 晩年は、長吉(じい)と呼ばれて人々に親しまれた長吉は、明治三十六年(一九〇三年)、惜しまれながら七十八歳の生涯を閉じました。
 長吉たちが開削した鶉山道は、今では国道二二七号線として道南(どうなん)の拠点である函館市と日本海沿岸の江差町を結んでいます。そして、渡島半島(おしまはんとう)の産業や経済、文化の発展の原動力として大きな役割を果たしているのです。


【出典、参考文献】
「江差百話 江差の民話・伝説・史話」江差民話研究会/「道の歴史をたずねて 蝦夷から北海道への黎明期に開鑿された蝦夷地山道物語上」三浦宏 (財)北海道道路管理技術センター/「歴史どうなん人物散歩 二代目鈴鹿甚右衛門」宮下正司 北海道新聞みなみかぜ/「歴史どうなん人物散歩 麓長吉」宮下正司 北海道新聞みなみかぜ/「北の交差点・VOL11」/江差町立江差小学校ホームページアドレスhttp://school.hiyama.or.jp/esashi/esashisyo/


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